ガンパレードオーケストラ 青の章(3)

「あー。聞いて欲しいんだが」
この日朝だけで10回目になるこの言葉を吐いた後、参ったなと言ったのは威厳がない石塚弘である。大統領がああだったせいか、軍の末端の指揮官も、あまり偉そうではないと後の歴史は言うが、生前に言われれば両者とも嫌な顔をしただろう。

 そこに、盛大にドアを開けてというか取っ手に手をひっかけて制動とドアあけと向きの変更を同時にやってのけた辻野が走ってきた。

「わわわ、わわー!」

 そして飛んだ。こけたのである。強い脚力に比して、辻野は身が軽すぎた。
窓ガラスを突き破って外に飛び出るところだったが、何気なく移動した田島が、抱きとめた。

受け止められた顔をあげて上を見上げる辻野。

「あ、ありがとう、田島」
「ん? 偶然だ、偶然」
辻野の礼に田島は微笑みを浮かべて。頭を軽く叩くと席に戻った。

 席に座る田島。隣の席の田上由加里が、眼鏡を指で押し上げて言った。
「偶然という割には素早いわね」
「そうか?」
田島は微笑を浮かべたままそう答え、教科書を開ける。それ以上は会話続かず、また一人自習を再開する田上。

辻野の騒ぎで静かになったことを好機として石塚は糸目を開けた。

「えー。僕は思うんだが、暑いんで水泳大会するのはどうだろうか」

場が停止したと思ったのは田上だけだった。この眼鏡娘は、真面目第一と考えており、この学校が他と比べて勉強がかなり遅いことを心配している。
田上以外は、次の瞬間、全員が喜んでいた。

 年少組一の野生派、松尾健太郎は立ち上がってパンチした。
「よっしゃー。一日水着姿! OK!」
どうでもいいが最初から水着姿のような格好の松尾である。周囲もそう思ったが、可愛いので皆、何も言わなかった。腕白で生意気ですごく可愛い、が、松尾健太郎である。

すぐにボンバーガールこと年長組で八重歯がかわいい赤毛の篠山瀬利恵を見た。皆を見て口を開く。
「いいか、お前ら、瀬利恵ねぇちゃんの水着姿も見えるんだからな。当然賛成だよな」
そして篠山瀬利恵から盛大に殴られた。パンチ撃ち降ろしである。

「バカ、色気づくのはまだはえーんだよ」腕を組んで、ふふんと笑う瀬利恵。恥ずかしいのは恥ずかしいが、ちょっとは自慢したいところもあるようだった。
「俺だってもう大人だって!ねぇちゃん」涙目で言う松尾。
「えー?そうかな。どれどれ」
松尾のズボンを引っ張って中を見ようとする瀬利恵を、両手で黙って怖い顔をした飛子室アズサが止めた。この人が部隊の良心であった。

「反対ですっ」
ひどい有様に立ち上がって机を叩いたのは当然のように田上である。
彼女は視線を集めていることに気づくと顔を赤くして下を向いて眼鏡を取った後、
「私は対案として集中的勉強会開催を提案します」
と言った。

当然、田上の意見は無視された。全員が何の水着にすると言い合った。
田上の怒りはいくばかりか。田上は周囲をにらみつけた後、憤然と席に座った。

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