ガンパレードオーケストラ 青の章(2)

 遅刻しないようにするには、どうすればいいか。
遅刻常習犯である学生には永遠のテーマである。

辻野友美は遅刻とは無縁だったが、このテーマにはいつも向き合っていた。
寝坊その他とは関係なく家を出るのが遅かったのである。ついでに言うと深い意味もなく遅かった。

いつも、家を出る5分どころか10分ほど前から、大きな壁掛け時計を、ともすれば正座で眺めていてというよりは睨んでいて、7時30分を越えると弾丸のように家を飛び出していた。

 遅刻しないようにするには、どうすればいいか。
彼女は簡単な答えを出していた

 遅刻しないようにするには、走ればいい。

辻野友美は走るのが大好きである。暑くても、あまり気にしない。もっと速度をあげればいいだけだった。そうすれば風が、彼女を涼しくしてくれる。

 一人では怖い神社を通り抜けるのをさけて超高速で迂回路を走り、速度はますます絶好調。緑が映える6月の道を、流れるように走った。


 これだけ速ければ、走るのもさぞ楽しかろう。


道を行く大統領、小淵恵のつぶやきである。この年の暮れには息を引き取ることになるこの人物は、この頃お気に入りの沖縄の代わりに、この地で数日過ごしていた。
格好はポロシャツに本人いたくお気に入りの帽子、左右不揃いの靴下、靴だけは妙に立派、であった。

辻野はテレビの中で笑う人が怖いので、テレビを見ない主義である。だからニュースに良く出てくる人とすれ違っても、全然気付かなかった。そもそも護衛もなしに普段着で散歩しているこの人物に威厳はかけらほどしかなく、言われればああ、町長さん位には見えるというそんな人物であるから、だからこれをもって辻野という人物がバカだと判断してはいけないだろう。

ちなみに小淵恵の兄は某県の本物の町長さんで、なぜだか大統領になったこの弟は、威厳不足を指摘されると兄に良く似ておりますとつまんないギャグを言うのが大好きであった。

小淵恵は、全力で目をあけて笑顔になって辻野友美の後姿を見た。目にも鮮やかな走りっぷりに、嬉しくなった。僕はこんな風景を守るために大統領になったのだとまで口走った。
なぜそう思ったかは本人以外には全然分からないのだが、この人物、ただこの性格で大統領まで上り詰めた自負がある。

島には隠れてゴルフをやりに来たのだが、この朝のことが余程印象に残ったか、それで、ゴルフをやめて走るとか側近に言いだした。実際腰痛でやめるまでの3日間、走っている。

後、島の滞在が漏れて戦時中になんという不謹慎なとマスコミ各社に叩かれるのだが、本人としては毎度おなじみ時の官房長官がいる限り、自分の休暇は大した問題ではないと考えているようであった。

いずれにせよその日一日、おそらくは日本の大統領に一番影響を与えた少女となった辻野は、そんなことを気にせずに走っている。

 タイムはぶっちぎりの12分13秒。 教室に入ったところで転びかけたが、田島に助けられて事なきを得ていた。

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