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イントロダクション

その昔、人もネコリスも空を見上げていました。

それは、空に浮かぶ柱があったからです。人もネコリスも、あの綺麗な柱のおかげで下を見ずに、生きていくことが出来ました。

空に浮かぶ柱は、いくつもの世界が、姉妹である世界を呼ぶ声が、目に見える形になったものです。世界と世界は、ずっと昔からそうやって呼び合い、手を伸ばし、結ばれ、あるいは一つになったり分かれたりしていました。

世界の数を、七つといいます。私たちのいる世界は五番目の世界。全ての世界は天に駆け上がる螺旋の姿をしていて、七つの螺旋があつまって、そうして一つの歌を歌っていました。

でも人はとても愚かがすぎて、空を見上げることをやめました。空に手が届かないから、だから見ることもやめたのです。好きなことに蓋をして、なぜかそれで幸せになろうとしていました。

ネコリスは言いました。それは違うよ。好きなことに近づかない限り幸せになることはけしてない。

人は言いました。でも僕の手は届きそうもない。手が届かないのなら、最初から手を伸ばさないほうがいい。好きになったのが、間違いだったんだ。

ネコリスは人の言葉に悲しくなると、自分達だけで空に浮かぶ柱を追いかけていきました。ネコリスが今も風を運ぶのは、そのせいだそうです。ネコリスは努力に努力を重ね、ついには風に乗る術を覚えたのだそうです。

人には、友達がいなくなりました。


私はこう思います。もしも、人がもう一度空を見上げたら、手が届かないとしても手を伸ばしたら、そうしたら。 少なくとも友達だけでも残ったのではないのかと。

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慶応3年 5月3日。

 小笠原沖に自沈していく夜明けの船を見ながら、知恵者は目を逸らし、赤い肌の女に口を開いた。

風は強く、声をかき消した。

 強い風に、緑の草と、ネコリスの尻尾と赤い肌の女の髪が揺れる。女は複雑に編んだ髪を下ろし、笑って口を開いた。その肩に羽織るのは、彼女が愛した男のただ二つの遺品の一つである青い上着だった。

「私は残ります」
「そうか、残るか」

 それだけしかない前髪を揺らして、知恵者は、この時だけはグレートワイズマンのように微笑むと、背後の士翼号を見上げて言った。

「これに手を入れてやろう。生命のように動き、営み、何百年もその先まで動いてそなた達を助けるような、そんな機体にしてやろう。慈愛号用の予備エンジンを入れ、光で編んだ翼を与えよう。単独でハイ・オービットまで軌道遷移し、懐かしいあの海に帰れるような、そんな力を与えよう」

「私はもう、戦うつもりはありません」女は微笑んで波の中に消えていく船を見て言った。
知恵者は目を細めて返した。
「だがそれでも、他に我が贈れるものは何もないのだ」

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