ガンパレードオーケストラ 青の章(1)

「あー。聞いてほしいんだが」

糸目、と呼ばれる少年というか青年というか微妙な年頃の人物を、石塚弘という。一応部隊の隊長である。

一応と言うのは、彼が隊長らしいことをあまり、というか全然したことがないためで、その主たる原因はこの島が戦略的価値がないためであった。戦いがないのである。もう一つは、この人物にはやる気が、ない。

平和な場所にやる気ある軍人というのはそれはそれで困ったものである。軍令部もその点よく分かっていて、だからこんな人物が配置されている。

こんな人物と書いた石塚弘は飄々としてやる気がない。仕事よりも釣りや一人将棋を楽しみにするような人物で、齢17にして老成している印象を周囲に与える始末であった。

石塚弘は元は海軍の優秀な士官候補生である。海軍の艦船が幻獣の交通破壊作戦による相次ぐ戦没により逼迫する昨今、乗る船がないので転科されてここにいる。島守備隊の指揮官である。
この人物、海軍上がりの陸戦指揮官としては善行忠孝の後輩にあたる。もっともこちらは善行と比較すると輝ける戦績が全然ない。
もっともこれは石塚が人物として劣っていた訳ではなく、善行が年長だったせいがある。
戦争で避けて通れぬのはそれがいつ起きてしまったかで、善行の初陣は21歳、また、戦争が本土に及ぶ前から実戦指揮をとっていた。ROTC(一般大学での予備士官教育プログラム)と言えども数カ月の速成訓練で指揮をとらされた石塚や狩谷夏樹と比べて格段によい環境で訓練をうけている。その後は(本人の希望はさておき)実戦経験を豊富にこなした。

 石塚弘は、善行より8年遅く生まれているために、軍人を作る環境としては甚だ恵まれていない。

 いずれにしても石塚弘は元は海軍の優秀な士官候補生、今はおとり潰しになった天文観測部隊を改編した島守備隊、海軍陸戦部隊の小隊長である。

「あー。聞いてほしいんだが」
 もう一度、言う。学兵なので教室に集まっていた。
人は集まっていたがこの日は朝から三十度を越えており、全員死んだように机の上に突っ伏して誰も顔をあげない。

ただでさえ細い目をさらに細くして、いやー困ったなと、頬をかいた。

小隊といっても、13歳からUMAまで勘定にいれての数である。実戦での頭数は、わずか5人であった。書類上はさておき、分隊すら構成できていない所帯である。

 さらに言えば、この部隊、実態としては上部組織が、ない。
一応書類上では中隊もあれば中隊本部もあるのだが、中隊は占守島、中隊本部は佐渡島にあって、有り体に言えば、本当に書類上だけの存在であった。そもそも石塚は中隊長とあったこともない。
 結果、小隊は地理的にも組織的にも独立した状況にあった。
外界との接点はたまに勲章を渡しに八丈島から来る上官と呼ばれる人(石塚はついにこの上官がどんな立場の人なのか、ついにわからず仕舞いだった)が来るくらいであり、ついでに石塚は、この人物の名前もよく覚えていない始末だった。

 石塚が声をかけ続ける小隊は、そういうものである。
 一言で言えばん上から下まで駄目駄目なのがこの小隊である。
そして恐ろしいことに、それで誰も困っていなかった。

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