ガンパレードオーケストラ 青の章 承前3

3ヵ月後。小笠原諸島、父島。

 田島順一は海を望む草地に座って空を見ていた。
映画の一シーンのようだった。

 田島順一は顔がいい。どこがいいと言われると皆が返答に窮するが、大きな目を開けて顎に手を当てて口元を隠すように笑っていると、男も女も、その雰囲気に引き込まれた。
笑顔だけで人を撃沈する人間はいることはいるが、その中でも田島は、出色して見える。

昔の名優だよと島の老人達は言う。ただ座っているだけで、もう違うんだ。
それは年がら年中奉仕活動している田島を褒めての言葉だったが、存外それは、本気の言葉かも知れなかった。
 田島の髪はオールバックである。前髪の一房だけが、額に垂れている。

後ろから目隠しされる。大人しくしている田島。

「だーれだ」
後ろから聞こえる辻野の声。
「辻野」
田島は2秒まって優しく言った。
「もー。つまんないなあ。すぐ分るんだもん」辻野はすぐ手を離して、笑った。
「すまなかった」
田島は優しく笑った。もう14にもなって後ろから目隠しなどする女は辻野しかいなかったが、田島はそういう事を言わない性質であった。この人物の苛烈さと傲慢さは、弱者には見せられることがない。

 辻野は何も分らない。田島と同じように空を見上げ、そして背伸びして左右に揺れて言った。
「どうしたの?」
「星を見ていた」
田島は嘘を言った。田島はここ最近姿を見せる高高度を飛ぶ銀色の航空機を見ていた。合成開口レーダーとおぼしき周波数帯のマイクロ波を目で見ながら顔をしかめる田島。
「今は昼間だよ」首を傾げる辻野。手入れをしない髪が、ぐちゃぐちゃになっていた。
「7等星までなら見える」静かに言う田島。立ち上がる。

 結局の所、田島は自分達を監視している存在より辻野のほうが大切だった。
だから観察をやめた。どんな能力を持っていようと、田島は辻野が本当の意味で小さい頃からずっと面倒見ている隣のお兄さんなのであった。

「さ、昼。何を食べる? 作ってやるよ」
「えー。田島はどうせ焼きそばしか作らないじゃない」
「いやいや、塩焼きそばとソース焼きそばがあってな」
田島が優しく言うと、辻野は口を開けて考えて、笑ってうんとうなずいた。
本当は焼きそばがあまり好きではなかったが、辻野は田島が困った顔をするのが嫌だった。
「いいよ」
「よし、競争だ」
「うんっ。私、走るの大好き」
「山本でも呼んでやろうか」
「えりすはどうかなぁ」

 二人で走る田島と辻野。今だ動き始める物語も知らず。
南の島の時間は、静かに過ぎていた。

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