電網適応アイドレスSystem4

アクセスカウンタ

zoom RSS ペンギンの峠を越えて ED

<<   作成日時 : 2006/06/21 11:47   >>

驚いた ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 0

 あの頃、工藤と咲良は二人であやとりをするのが日課だった。谷口が書類仕事を終わるまでの暇つぶしだ。
あの頃でも体力がなくて夜まで持たない咲良だったが、まだあの頃は、仕事や訓練さえしなければ、倒れずに過ごすこともできた。

 ガミガミ咲良に小言を言うはずの谷口が全部の書類仕事を引き請けだしたのは帰り道に咲良が倒れてからのこと。工藤は、それが男としての奴なりの責任の取り方だと分かっていたので何も言わなかった。

 仕事をさぼりたがる割に、解放されればさればで寂しくなるらしい。咲良はだから、家に帰らずじっと教室で待っていて、私はいらない子かもしれないと、工藤に打ち明けた時があった。
まだ部隊が実戦に投入される前のことだった。

そんなことはないよ。工藤は伯父の真似をして咲良の青い髪に触れて言った。
工藤が大好きな伯父は、こんなところでも工藤に力を貸していた。あやとりはお金の無い日の夜、伯父が教えたのだった。

 今は全部を忘れたかのように神妙に手を動かし、咲良は鼻にしわを寄せて、あやとりで無駄に最高性能を発揮しようとしている。橋は覚えた。今日は東京タワーだ。という表情である。
 たまにこの中に、上田虎雄が入ることがある。上田はこういうもの全般が、大好きだった。自作の絵本を面白いと言ってくれたのですっかり咲良に肩入れしているところもある。
反咲良の急先鋒、菅原は、どういう訳か上田だけには妙に甘く、そのせいか上田が混じっているとため息をついて自分も仲間に入る時があった。あやとりのどこが面白いんだろうと菅原は不満そうに言うのだが、遊びだすと一番熱心なのも、菅原だった。

これに、混じりこそしないこそ航が来ることがある。
あやとりを、ずっとにこにこして見ているのだ。やる?と工藤が聞いたら、いや、僕は不器用だからと、笑って断られた。

 たまにこの航を目当てで、不機嫌そうな渡部が来る時がある。渡部に気づいて優しく微笑む航に、渡部は激怒して帰えるのが常だった。
時があえば、鈴木ファンタジアやその騎士佐藤が窓に背を預けて何も言わず立っている時もある。誰にも話しかけられず、誰にも話しかけないが、どこか心地良さそうに見えたのは、工藤のひいき目だろうか。

 山口はたまに、暖かいお茶を差し入れて来た。

工藤が思う、大切な大切なこと。

/*/

「何やってんだ。立て、反撃だ。剣を振れ、思いっきり。あと一度だ、あと一度走れ。お前は皆を家に返すんだろう!」

 意識を失って人工呼吸器をとりつけたまま、、工藤は目を開けて病床の中で叫んだ。
手をのばした。

/*/

 長い髪のターニ・キルドラゴンは泥と砂にまみれた手を延ばすと、その手に馴染みある細い手が重なるのを幻視した。

それで、力を得た。友情がターニの心の中にある魂に今一度の炎を授け、100時間を越える戦いの最後を、101時間目を戦う勇気を渡した。

 夜明けを呼ぶただの長い棒、最強の剣であるテンダイスをつかみ、剣を振るって覆いかぶさる巨大骸骨兵の首を刎ねた。
 
 崩れ落ちる骨を浴びながら立ち上がる。そして、胃が痛いときに手を繋ごうと言われた時の表情で、ああ。そうだとつぶやくと八本腕の双胴の巨人と最後の一騎撃ちを開始した。

/*/

工藤は優しく満足したように笑って、心臓を止めた。

/*/

 夕方になると咲良や谷口、航と一緒に帰った。まだ、日が落ちるのが早い頃のことだ。影が長くて、工藤は自分の影で谷口の影に勝とうと、背伸びした。

手を繋いで帰ることもあった。手を繋ぎ、るんるんと歌いながら帰る15の咲良は、周囲には妙に見えたかも知れないが、工藤は、気にしなかった。
他人は他人。自分は自分。皆が怒られた時に使われた言葉という言葉は、伯父にかかると優しい言葉で、だから工藤は咲良に良く話して聞かせた。他人をうらやまず、自分を卑下せず。
優しさこそが世界の王、優しさこそは第一番と、歌った。

 いつもは胃が痛いせいか厳しい表情の谷口が、はじめて笑ってそうだなと言った。

 谷口と手を繋いだ事もある。一度だけど。
谷口、航に挟まれて手を繋ぐ咲良は嬉しそう。
余っている工藤に気づいて、手を繋ごうと言った。
 谷口と顔を見合わせて、それで手を繋いだ。

胃が痛いのに胃に手を当てられず、切なそうな表情の谷口、喜べと言ったら、何を喜ぶんだ?と真面目な顔で返された。

/*/

 工藤を狙って攻撃ヘリ20機の奇襲があったその日。
タイガー・テンダーブルーはグリンガムを駆る源の知らぬうちにグリンガムの背から後ろに飛び降りて腕を組んだまま着地して、次の瞬間には大跳躍して窓ガラスを飛び蹴りで叩き割って工藤の病室に入った。
蹴りだけなら私に勝てるかもねとは彼に格闘技を叩き込んだニーギの言葉である。
驚く神海や消沈して動かない石津を無視して、タイガー・テンダーブルーはベッドの上の工藤を見た。
割れてベッドにばらまかれたガラス達が花のように、眠るように死んだ工藤を飾っている。

タイガー・テンダーブルーは静かにつぶやいた。

「ねえ、ペンギン。僕は思うんだ」
「なんで工藤さんは死ななきゃいけないのかな」

 タイガーはこの時だけ虎雄に戻って顔を歪めた後、次には低い声で叫んで工藤の死体が跳ね上がるほどぶん殴った。振り返る。

 一斉に動き出す心電図。脈拍計。

 タイガー・テンダーブルーは叩いて直す拳の持ち主である。
その手の淡い輝きは彼の誇りであり、同時に悲しみだった。

窓の外に攻撃ヘリがホバリングする。タイガーは無表情にヘリを見た。窓際に向かって歩きだす。
ゆっくりとタイガーの瞳が、燃えるように輝き出した。口を開く。

「なぜ戦う以外に道があると信じない……!」

タイガーは飛んだ。ヘリに向かって。

「百年先まで覚えていろ、我が式神の名はハードボイルド!!」

/*/

 夕日を背に3人で帰る。
右が谷口で左が工藤。真ん中はいつも咲良だった。
手を繋いで帰っていた。

 これでは親子みたいだと嘆いて咲良を見る谷口にむっとして、工藤は、何言ってるのよ父ちゃんとすまして言った。
 意味不明と言う咲良は偉い傷ついた顔の谷口を見上げる。谷口はここ最近の心労で老けたんじゃないかと自分でも気にしていたのだった。

工藤は歩きながら谷口に言う。
「ちゃんと稼いでよね、父ちゃん。みんなを守りなさいよね、父ちゃん、あんた父ちゃんなんだから、分かった父ちゃん?」
「お前俺に恨みでもあるのか」 筋肉はさておき口は全然達者でない谷口が言えたのはそれぐらいだった。
「あら、なんなら私を母ちゃんと言い返してもいいのよ」
 工藤は舌を出して言った。
「意味不明」不安そうに言い出した咲良を抱き締めて、工藤は谷口を全力でからかいだした。

/*/

 工藤はゆっくり目を覚まして、涙の筋に気づかずに、周囲を見て子供のように笑い始めた。笑い続けた。

 笑い声に呆然とする石津は、自分に話しかける学兵の表情に気づかず、工藤に走り寄った。

工藤は涙が出るまで笑い続けた。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
驚いた
ナイス
ペンギンの峠を越えて ED 電網適応アイドレスSystem4/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる