ガンパレード・オーケストラ緑の章(63)

 その日の夜。割り当てられた自室で善行は読書をしていた。
明かりは消していて、カンナが作って残していった蝋燭の明かりだけで本を読んでいる。

遠慮がちにノックして室内に入ってきた英吏の方を見ずに、善行は口だけを笑わせた後、口を開いた。

「どうですか。紅さんの調子は」

 善行、衝撃のご乱行でぶっ倒れた英吏の下敷きになって、紅は入院してた。
逃げればよかったのに最後まで支えようとした結果である。英吏はお前のせいだろうがと思ったが、表面上は何も言わず、ただ憮然とした。
「まあまあです。お気遣い、ありがとうございます」

善行は本を読みながらアズサを思った。優しく口を開く。
「大事にしてあげてくださいね。僕は大事にすべきものを大事にしなかったせいで、今も悲しくなることがある。君は、そうならないほうがいい」

皮肉そうに口を開く英吏。でも目は優しい。声はささやくようだった。
「大事にしてやりたいですが、難しいですな」
「なぜ?」善行は、本を読みながら言った。
英吏は紅を思って口を開いた。事務的に。
「私は女の弱みをつけ込むようなことはしません」

善行は本を閉じる。素子ならどうだ。口を開く。
「わざと弱みを見せているのか知れませんよ。誘うように。にゃーんと」
英吏の目が細くなった。次の瞬間に銃を撃っているようなそんな表情。すぐ射撃を実行できないのが残念だと言う風に口を開く。
「不幸な女を前にしてその言葉、実際に言ってみればよろしいでしょう、芝村ですらそんなことは言いはしません」

善行は萌を思った。口を開く。どうでもいいが行ごとに女の名前が違うのが誤植ではない。
「すみません」
「いえ。私のほうこそ少しばかり冷静さを失っておりました」
頭を下げる英吏。
善行は頭を軽く振ると、それで、本題は何ですかと口を開いた。
しばらく考えた後、口を開く英吏。腰の裏で拳銃のセーフティを抜いている。
「敵がなぜ執拗に攻撃をしかけるかと考えておりました」
「何かを、思いついたんですか」善行は返答次第で僕を殺す気ですねと思いながら、優しく口を開いた。

英吏は善行が机の下に伸ばした左手を、それとなく輝かせ始めたことを感じた。だからとといって、やることは同じなのだがなと思いながら、口を開く。
「あの金髪の女です。あれは敵に価値がある可能性が高い」
「なるほど」善行は静かだった。
「どうされますか?」英吏も静かに問うた。

善行は即答した。
「どうもしません。彼女は今のところ制服から見ても友軍だ。かりにそうでなかったら民間人だ。そしてどちら相手でも我々の仕事は同じ。守るだけです。弱者を守るのが我々の生き残り戦術、そうでしょう?」
 英吏を見る善行の眼鏡の奥の中のものが、燃え始めた。
誰よりも恥を知るがゆえについには人の形をした猫になった、善行と言う雄猫があらゆる手段を用いて厳重に隠している、それは恥ずべき衝動だった。

それは建前と正義だった。善行は誰よりも建前を愛している、本物の大変態だった。自分でもその自覚があって、だから彼は己を隠して生きている。
一方正義は後ろ足で砂かけるほど好きではなかったが、死んでいった部下達が、誰も彼もが彼にそれを託していたのだと、彼はそう思ってもいた。
だから善行は建前の隣にいつも正義を並べて持ち歩いている。

 英吏は、皮肉めいた笑顔を浮かべてほっとしたように拳銃の安全装置を戻した、手を前に出す。
「そうして、何をされるつもりですか」

善行は笑った。人間に馬鹿な質問を問いかけられた猫のような表情で英吏を見て言う。
「そうして旗をうち立てるんですよ。僕の猫の旗を。そうしてこの世のどこにあろうとも、僕は尊厳を守ったと、ただそれだけを主張するんです」
「そしてどうされるのですか」
「決まっている。死ぬんですよ。僕はずっと、自分が責任をとるとしたらそれ以外にないと思っている」

 そういった後で、口を開いた。カンナの残した蝋燭が、善行の声を浴びて急に消えそうになったからだった。
「とはいえ、それは今ではありません。……まだだ。まだ死ぬことは許されていない。もっと醜くあがけと、そういわれているように思います」

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