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zoom RSS 緑のオーケストラ 原・ストライク(5)

<<   作成日時 : 2006/05/30 03:25   >>

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 一羽と一人が旅に出たのは、その日の夜である。
スバル360は、あら、戻ってくるのが早かったわねと言う風に、勢い良く排気ガスを噴出した。

 原の手で311馬力を叩き出す、自重400kgを下回る車にはいささか過剰な性能のエンジンに換装されたスバル360は、おもちゃの車のように、良く走った。

 原は、助手席でフロントシートをリクライニングさせた。
居住環境には気を使う彼女はジャンク屋で1966年型(後期型)のシートを拾ってきて、べたつかない合成革張り+座布団に変更して使っていたのである。ちなみにそれ以外は58年型のままであり、助手席の隣の運転席は可動しなかったりする。

毛布をかぶる。良く眠れない。
原の頭の中で新しい助手の話が、ぐるぐると繰り返されている。
 あきらめて起き上がって、ペンギンをにらんだ。

ペンギンはいつもの通り帽子を目深に被り、運転している。原はそれが面白くないので目をそらした。
おりしも時刻は夜明け前。 街は遠く、今は海岸線に平行して走る公道の上だった。
青灰の世界を、ライトを点灯させたスバル360が、走っている。

時速は100kmほど。強化した車体にもかかわらず、もう細かい振動が出ていた。

「お話して」
 毛布をもう一度かぶりなおして、原は言った。
「そうしたら眠れるかも知れない」

ペンギンは帽子を浅く被りなおすと、嘴を開いた。
「子供にでも戻ったか?」
 いつもは深みのある優しい声も、今日に限ってはそれがひどく他人を寄せ付けないように聞こえて、原は、口を開いた。
「そんなに私をいじめて楽しい? 楽しいでしょうね。このサディスト、冷血鳥、ムッツリペンギン……」
「嫌なら車を降りてどこにでもいけ」ペンギンの返事は短い。
「何よ、毎日牛乳飲ませてやるんだから」涙を浮かべて言う原。
「そりゃ健康によさそうだな」ペンギンはそう言った後、長く時間を置いた後、嘴を開いた。
「お前が悪いんじゃない。お前の趣味が悪いんだ。ここは、俺の隣は居心地のいいところじゃない。俺の隣は泣きながら砂を噛んで弾を銃に込めていく、そういう奴が座るところだ」
「私、今、泣いている。それじゃ駄目?」

ペンギンは黙った。原も、黙って下を向いた。
夜明けの空が薔薇色になる頃、ペンギンは再び嘴を開いた。

「俺たちが守る善行ってのは、どんな男だ?」
しばらく寝たふりをした後、しぶしぶ起きてペンギンをにらむ原。
目をそらして、考えて、口を開く。
「昔付き合ってたことがあるわ。……強い人よ。ただの人だけど、能力とか、そういうものじゃなくて、強いと思う。戦争の天才なの。息をするように部下を使って、大勢殺して、戦場でだけ、優しく微笑むわ。貴方より強いかもしれない」
「ナポレオンという男に似ているな」ペンギンはそう言った後、昔を思い出して言った。「奴なら確かに、どんな神々より強い」
「フランスの皇帝みたいな名前ね」原がそう言うと、ペンギンは帽子を深く被った。
「そうだな」
ペンギンがそれきり黙っていると、原は口を開いた。
「あの人が死ぬところなんて想像できない。おじいちゃんになってよぼよぼになって死ぬのはわかるけど、殺せる存在がいるなんて、とても思えない。第五世代?いいえ。本当に強いのはそう言うのじゃないの、強いから強いのよ。シャープペンシル一本あれば、あの人はどんな戦場からだって口笛吹いて帰ってくるわ」
「ヴァンシスカが死んだと聞いた時、ナポレオンは負けた」ペンギンがそう言うと原は少しだけ寂しそうに笑って、真実を告げた。
「あの人、本当に好きな人いないわよ。女は全部寂しいから傍においてるだけ。そりゃ死んだら泣くとは思うけど、でもあの人は泣きながら勝つわ。あの人の思いと戦いはなんの関係もないの」
「好きなんだな」ペンギンが優しく言うと、原は頬を小娘のように赤くして言った。
「ペンギンよりもいじわるじゃないしね。べーだ。おやすみ、私寝るから」
毛布を被る原。

ペンギンは窓の外に目をやると、黙って車を走らせた。

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