緑のオーケストラ 原・ストライク(2)

(4)

「それで、今度はどこに行くの?」原は助手席から身を乗り出して、風に髪を躍らせながら言った。襟が大きな胸襟シャツは、風ではためいて、片方だけの原のイアリングと踊った。

黙って運転するペンギン。風で帽子が飛ばないように深く被りなおし、煙草を吸いながら嘴を開いた。
「アエリアだ。緑の多い水の都市だ。この季節だとトンボが飛んでいるくらいが自慢の、そういうところだ」
「あら、隠居でもする気?」原はペンギンに言った後、ちょっと考えて付け加えた。
「それとも貴方の故郷だとか」
ペンギンはシフトチェンジしながら嘴を開いた。
「はやく寿退社して子供をじゃんじゃん作れ。もう飽きるほど、死ぬのも死なれるのも、見てきたろう」
「レベル低い反撃ね」原が呆れて振り向くと、ペンギンは帽子を深く被って黙って運転していた。表情を変える原。目を伏せる。

 原が身を乗り出すのは、ペンギンのためである。一緒に旅をはじめた最初の頃、ペンギンは原の健康を気にして煙草を吸わなかった。このペンギンは、どんなことになっても他人に断りをいれることもなければ他人を気にしているとも言わないから、勘のいい原も、なぜペンギンが原が毛布に包まった夜にしか煙草を吸わないか、分らなかった。
それで、原は別段煙草の煙が嫌いではないにも関わらず、窓の外から顔をだしている。

原は、飽きるほど見てきたのは貴方でしょうと思った後、何もかも嘘で塗り固めて少しだけ明るく言った。
「小さいお店出すくらいならしてもいいわよ。子供相手の。儲からないけど、子供が一杯で忙しい店にするの。んー。看板娘は譲れないけど、ペンギンが看板店主になっているとか」
「いい話だ。その看板ペンギンには俺からよろしくと伝えておいてくれ」ペンギンは心からそう言うと、そのままの口調で言った。
「言い忘れたことがある。アエリアってところはもうそろそろ水没する」
原はどうせそんなことだと思ったわと言った後、狭い車内で胸をはって言葉を続けた。
「いやよ、この格好で水泳大会なんて。貴方はいいかも知れないけれど」
「銃に気を使うペンギンは、水泳大会なんかやらない」ペンギンは静かに言った。
「ハードボイルド。そんなことばっかり言ってるとハードボイルドペンギンじゃなくてへんくつペンギンになるわよ」べーと舌を見せて顔をしかめる原。
ハードボイルドペンギンは、原を無視して言った。
「他人がどう俺を言おうが俺の知ったことじゃない。歴史が俺をどう描くのか、そいつにも興味はない」

ペンギンは再度のシフトチェンジ、速度をさらにあげた。煙草を車内の灰皿に突っ込み火を消して嘴を開いた。
「俺が気にしているのは一つだけ。俺は嘴折れて死ぬときに、笑っていられるかどうかだ。他がどうした。俺のことを何か言うそいつらは俺が戦って死ぬのに、なにか関係があるのか?」

 風圧が強くなったので車内に顔を戻す原。手回しハンドルで窓を閉めながら、口を開いた。
「心配しているかも知れないわ」
ペンギンは帽子を被りなおした。
「自分の心配をしろ。悪い趣味を改めて、そして何もかも忘れろ。どんな思い出よりも、これからの幸せのほうが大事だと早く気づけ。銃の匂いがフリッパーに染み付いて、何もかもどうしようもなくなってしまう前に」
「なによ、匂いが落ちるまで水泳大会すればいいじゃない」
「お前はそう言うところがガキなんだ」

 それで、一人と一羽は長いこと黙った。

原は腹を立てて、袋に入ったフランスパンを頭からかじって、ペンギンが何か言うまでじっとにらんだ。

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