ガンパレード・オーケストラ緑の章(64)

 時は、少し戻る。
英吏は紅の横たわるベッドの脇で、この男にしては珍しく、神妙極まりない表情をしていた。

「すまん」
 美しい黒髪を編んで身を起こす紅に言う英吏。
紅は驚いて英吏を見た後、小さく笑ってうなずいた。
部屋に入ろうとした斎藤は、耐えられずに、逃げ出した。

 隣のベッドから、罵声。
「は、太り過ぎなんだよデブ」
 源、だった。ちなみにこの人物も入院である。
英吏は目を細めて即座に反撃、言い返す。
「そういうそなたはなんだ。貧弱がすぎると見るが」
「俺が入院したのは金城が重いからだ」
隣の金城は、ベッドに寝たまま点滴を吊るす棒をつかんで源を殴った。

「なにしやがる!」
 蹴り技より痛くなかったので、源のわめきも、今日は元気がいい。さすがに金城の蹴りも、入院していては使えないようであった。

金城は、吊り目が半眼である。
「嫉妬なんか醜いわよ」
「は?」片眉をあげる源。このにぶちんがと思いながら、はっきり言う金城。
「英吏がもてるのが嫌なんでしょ」

 源と英吏が同時に顔を見合わせた。互いに意味不明のゼスチャア。あえて手信号を文字にするとこうなる。
(お前もてるのかよ!?)源。
(初耳だ。相手知ってるなら俺に教えろ)英吏。
(教えてどうすんだよ)源、変な顔。
(結婚を申し込む)英吏、まじめな表情。
(はやっ)驚きあきれる源。
(俺にそうチャンスがあるとはおもえん)いつになく本気の英吏。
(確かに。で、もてるって、やっぱ食堂のおばちゃんかな)うなずく源。
(お互いお得意様だからな。金城め、俺達がおばちゃんにサービスで握り飯をもらったことを感づいたらしい)口元を笑わせる英吏。
(食いしん坊な奴だ)同じく口元を笑わせる源
(かわいいと言え)英吏、ウインク。
 ゲラゲラ笑う源と英吏。

金城腹を立てて点滴を吊るす棒を振った、源、ベッドから転げ落ちて逃げる。英吏、源を受け止めた。お姫様だっこ。近くの竜造寺が悪夢を思い出して口から泡を吹いて意識を失った。

英吏と源を見て、衝撃を受けるというか傷ついた顔の金城。
その表情を見た英吏と源のほうが衝撃をうけた。
「まてまてまて」源。
「何の勘違いかは分からないが、勘違いだ」源を抱き上げたまま英吏、下がる。
「おいまて金城、いくらなんでも寝ながら蹴り技は使えねえだろ、な? 休んでろよ」優しく言う源。
「握り飯くらいなら用意してやる」下がりながら言う英吏。

金城の目が燃えている。怒って飛びかかる猫みたい。
「キックの鬼をなめんじゃないわよ。それぐらいの距離が安全圏だとでも?」
「なめてないから下がってるんだろうが」源。
「そうだそうだ」英吏。

 金城、黙れと言いながら空中に点滴を吊るす棒を放り投げた。
そのまま長い脚を天に掲げる。ずれて落ちるシーツ。互いの目を覆う源と英吏。

キックされた長い棒、二人に命中、ぶっ倒れる二人。
これが鬼の技だと金城は言い切り、寝不足の神海に、怒鳴りつけられた。

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