NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(62)

 その日の夜。

数日ぶりに妹が寝付いたので、牧原倖はこれまた数日ぶりに家の外に出ていた。
 ヒトウバンに襲われた日から妹、輝春は極度の睡眠障害になやまされている。

投薬治療をすべきだと、倖は輝春に言った。
そして大喧嘩した。
病院にいくのを、輝春は嫌う。

どうしようもないプライドだと、倖は思いながら星空の下を歩く。自分も寝たいが、それよりも解放感に浸りたかった。

軍隊というものは精神を変調させるに十分なストレスや緊張に満ちあふれている。とりわけ実戦ではそうだった。軍隊の歴史とは兵士の心が壊れる歴史である。戦争が終わって軍服を脱いでも、荒廃した精神は容易に回復せず、しばしば何年にも渡って元兵士達を苦しめた。

考えながら歩く。

恥ずかしいことじゃない。どんな戦いでも平然としている僕や英吏、善行のほうが恥ずかしいんだと、倖は思った。
思った後で星を見上げる。 それとも別の理由だろうか。

行き過ぎた兄依存とか。兄妹愛とか。

困ったものだと、倖は思う。性格はともかく顔立ちは二人とも欲にている。鏡で見る顔を妹は愛せるだろうか。

 僕は出来ないなと、倖は思う。

やはり妹にいい男を娶せないといけないな。牧原倖、何事にも超然としているが、これはこれで悩みが深い。

 いつのまにか、脚が厩舎に向いている。
自らの雷電、ブラックがさぞ不機嫌になっているだろうなと倖は考える。全く僕の人生は、女に翻弄される人生だ。

 厩舎について不機嫌そうに前足を組んで顎を前に出して半眼で見るブラックに雑穀をやり、ボールを投げて遊んでやる。
 隣の厩舎にいるジジを見る。怪我を癒すために、ジジは繭を作って中に入っていた。
重傷だなと倖は思う。

 まあでも、死ぬよりはずっといい。
英吏、あの化け物にもいいところはある。雷電に近い分、雷電と話せる。傷ついても伏せたまま命令を守るジジを諭したのは、英吏だった。

年代物の壁掛け時計の鐘が鳴った。

もう、日が変わったか。壁掛け時計を見て思う倖。
そろそろ帰って、眠ろうと思う。

歩きだす。バウという鳴き声。

この声はコガくんだなあと考え、倖は不審な顔をする。
おかしな話だった。雷電は主人と話す時と攻撃する時以外は鳴かないように躾られている。
唯一の例外だった雷電は、人を三人殺して射殺された。普通サイズの犬なら問題行動にならないものも、

 倖は足音を消して歩く。鉄の扉から、部屋の中を見た。

丸まったコガ。迷惑そう。
善行や英吏よりよっぽど人間くさそうな表情が、倖は好きだった。コガはいい雷電だ。

バウ。

また鳴く。

病気、だろうか。倖は考える。扉をあけて、部屋に入った。

「コガくん、大丈夫かい?」
丸まって首をあげ、顔をしかめたまま首をふるコガ。
バウといい、長い鼻で自らの毛皮の中をつっついた。

ぐわ!この駄犬っなにすんのよー!

毛皮の中から顔を出す結城。
倖の目が、丸くなった。

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 結城火焔は、丸まったコガの毛皮の中に長いこと隠れていた。
顔を真っ赤にして、何していいか全然分からずに、困っていた。

 竜造寺に、好きだと、言われたからだ。

中野区生まれのスーパーガールを自称する手前、うろたえる姿を他人に見せたくなかったのでコガの毛皮の中に隠れていたのである。

 問題なのはコガだった。
恩年数えで5歳、趣味昼寝のこの老雷電は火焔がしきりに話しかけてくるので参っており、ありていに言うと、そんなの時間が解決するわいと、考えていた。

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