ガンパレード・オーケストラ緑の章(第59.5回)英吏の事情。

 (第59.5回の)翌日は土曜であり、斎藤奈津子からの脱出である。
時は体育の授業中、深澤と源と英吏が蹴られ、ぶっ倒れた後になる。

金城は、伯爵(というあだ名の教師である)に連れて行かれた。
男子全員が、金城を見送った後、奴はカルシウム不足だと言い合った。

 審判というか伯爵がいなくなったので、試合は中断である。
顔を踏まれた英吏と源は、仲良く並んで、風に吹かれた。

「くーちゃん、かわいいよなあ」
なんとなしの源のつぶやきに、英吏はふんと鼻を鳴らして口を開いた。
「かわいいというのは金城や結城や斎藤のような奴のことだ」
ちなみにこの言葉、心の底から本気である。
源は英吏をまだまだ子供、俺なんか手つないだぜと思いつつ、口を開いた。
「ぶ、お前マゾかよ」
「いや、まあ金城も時々怒りっぽくなる時はあるが、大部分は素直にかわいいだろう」英吏は擁護した。心配して近づいて来た紅の顔が曇るのには、気づかない。
「どこがだよ。あんな奴。訳分かんねえ」
昨日といい今日といい。ぶつぶつつぶやく源。だいたい泣きそうな顔が反則なんだよな。まるで俺が悪いみたいじゃねえか。

顔をあげる源。
「なんだよ、英吏」
英吏は静かに言った。
「深澤が起きてこない」

源も、立ち上がって深澤を見る。つぶれた蛙のような深澤。あわてて口を開いた。
「やべえ、ちょっと担架持ってくる」

うなずく英吏。
「それがいい。大事を取って病院で検査させよう。ついでに伯爵に報告しておいてくれ」
「OK。んで、お前は?」
 源がそう尋ねると、英吏は今頃気づいたか、視線を悲しそうに立っている紅に向けていた。口を開く。
「俺は顔の治療でもしておく。紅、頼む」

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20分後。
 英吏は紅に治療さている。
紅は消毒薬を染み込ませた綿で英吏の顔に触れながら、小さく口を開いた。
「なんで病院にいかないの?」
「あそこには斎藤がいる」英吏の説明は簡潔である。紅は口を開いた。
「かわいいさいとう……」
「ああ。かわいいな」笑って言う英吏。笑ったまま、少し寂しそうに言う。「まあ、俺には高嶺の花だ」
「なぜ?」紅は、自分が痛いように綿を動かした。

しみると顔をしかめながら、口を開く英吏。
「奴は竜造寺が好きなのだ。顔を赤くして手を振るくらいにな。竜造寺のバカめはそれが分かってないらしい。……さっき、教えてやった。まったく、鈍いにもほどがあるな」
 手が止まったので、英吏は紅を見る。
「どうした?」
紅は、目を下にそらす。
「なんでもない」
何を思ったか、口だけを動かして皮肉そうに笑う英吏。
「大体俺は斎藤に嫌われている。奴は俺を見て逃げ出した。まあ、気持ちは分かるのだがな。ああ、良く分かる」後半は自分に言い聞かせるためのものだった。「だから彼女の幸せを願う。出来るだけのことをする。見つからずに、近寄らずにな」

紅は、英吏を抱きたいと思いながら、道具を救急箱に片付けながら言った。
「私はかわいい違う、でもしばむらが嫌いでなければ、私がいる」

 大昔、紅が牧原倖ばかりを見ていたことを思い出し、英吏は悲しくなった。あんなことさえなければ、紅は今も、牧原倖を見つめ続けることが出来たろう。
紅が、自分に恋愛めいた感情を持つことを理解しながら、その上で前向きではないなと思う英吏。あんなことがあって、こんなことがあって、失ったものの穴埋めに俺を使う。 人は心に開いた穴を何かで埋めなければ生きてはいけない。

「確かに、かわいいではないな」英吏は笑って言った。

だがそれは、俺も同じこと。俺も何かで埋めたい。前向きではないと分かっていても。それでも。

英吏は口を開く。
「そなたのような者は美しいとか麗しい言うのだ」

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