ボーナストラック ガンパレード・オーケストラ緑の章(50)

 斎藤は股を広げてお腹の毛をぺろぺろする黒猫を見た後、そ、空耳ですよねぇと笑った後、顔を引き締めて窓から外に飛び出した。

まっすぐハンガーに。

ウォードレスロッカーへ。そして石津萌と書かれた場所の前のところに行き、ごめんなさいといって開けた。

白いウォードレスが入っていた。

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 テンダーフォックス。優しい狐という名前のウォードレスがある。アーリィフォックスやハウリングフォックスの設計で知られる嶋丈晴が設計した、彼が作ったただ一つの敵の撃破を目的としないウォードレスだった。

その狐は医療用である。

 強襲用ウォードレスであるハウリングフォックスから適度に装甲を抜いて背部に移動補助ユニットを装備している。
 性質的に全然逆のウォードレスをベースにしたことについて嶋丈晴はこう述べている。
怪我人を助けるなら一刻一秒を争う。かついで走る必要だってあるかもしれない。それは要するに機動力が高く、重武装を装備可能な強襲用と設計上の差異はないということだと。

 嶋丈晴は自身の最高傑作をあげる際にはボキの最高はテンダーフォックスですよと、必ず言っている。そうあってほしいという彼なりの要望があったのかもしれない。

 斎藤が引き出したのは石津萌が着る白いテンダーフォックスだった。
 あわてて服を脱いだせいでこけたりしながらウォードレスを着用する。石津萌の胸が小ぶりのせいか、胸部パーツをはめられないので斎藤凍る。二秒考え、今度は結城火焔のロッカーを開けて青く塗られた彼方B型(女性用の彼方)の胸パーツを取り出した。着用。今度は大丈夫。というか大きすぎるような気もしたが、斎藤は顔を赤くして無視した。

左腕の集中型医療装備、切り離し。武装全廃。
斎藤は白いヘルメットを被った。バイザーを降ろし、そこいらに落ちていた瀧川の私物にして瀧川が大好きなアニメである超辛合体バンバンジーのロボットのお面をかぶった。
変装終了。

深呼吸。完全に気密されたヘルメット内部に、冷たい酸素が入り込んで来る。気持ちがいい。

焼き付けられた記憶の通り、メニュー呼び出し。

安全装置解除。モード緊急。出力、緊急。バランスコントロール、緊急、移動補助ユニット、緊急。
第6世代でも全身を複雑骨折しそうな力がかかり始めるが、斎藤は完全にこれを無視した。

生まれて初めて、この生まれを感謝した。
悲しいことは一杯あったような気はするけど、今はそう、全部忘れた。

 身体のリズムを計り始める。
絶望の波が一番引いたところで感情固定。もう悲しくない。
クラウチングスタートのポーズ。顔をあげた。

「高機動斎藤、奈津子っ。夢の十代、吶喊します!」

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 爆発が起きた。

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 石津萌は神海を指揮して容体が急変した金髪の少女の治療に全力をあげていた。薬品少なく、人手なく、ただの戦いよりもよほど大変な戦いを、彼女はやっていたのだった。

 その彼女が手をとめて窓の外を見た。

窓の外を、騎兵槍の飛翔のような土煙をあげて白いものが走って行った。それを黒猫が追いかけて走っている。

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