NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(31)

 斎藤がたどり着いたのは毛布に包まった大きな毛虫という感じの瀧川の所である。

 足元でただならぬ斎藤の雰囲気に気づいた一柱の小神族カトリが、瀧川の髪を引っ張ってこれを起こした。

寝ぼけ眼で起き上がる瀧川。
斎藤のふとももを見て急に目が覚めた。

「ど」
「敵です」
 頭を瞬時に切り替える瀧川。すぐ毛布をかついで立ち上がる。
「分かった。はい、これ」
 毛布を斎藤に渡し、即座に上着を脱いで、斎藤に投げて寄越した。戦車兵用ウォードレスであるフォックスキッドを取り出し、袖を通す。このウォードレスには人工筋肉がついておらず、単なる機上作業服というという感じである。ヘルメットを足で引っ掻け、脇に挟む。腰には裏マーケットの親父が餞別でくれた、ベルギー製の洒落た小型拳銃を下げる。瀧川の小さい手でも握りやすくグリップは交換されていた。

「芝村ー、敵だって」
「分かっている」
 舞も、すでに支度を整えて出て来ていた。そしてすぐ戻った。ヘルメットのつもりで雷電のぬいぐるみを脇に挟んで歩いていたのに気づいたからである。
 瀧川はそれを見て笑ったが、斎藤が芝村と聞いて切なそうな表情を浮かべたので、そちらを注視した。

 不意に口を開く瀧川。
「えーと、斎藤さんだっけ」
「あ、はい。斎藤です。奈津子デス。がんばってますっ!」
 ヘルメットをかぶって無線の空電音をきく瀧川は、斎藤を見てなんとも人をなごませる笑顔を浮かべた。

「俺はお前のこと良くわかんないだけどさ」
「は、はい」
「落ち込んだりしなくても、いいと思うぜ。がんばってるなら、なおさらだ。大丈夫。うまくいくよ」

 斎藤より背の低い瀧川だったが、不思議とその言葉は、斎藤に響いた。小さくうなずく斎藤。恥ずかしそうに歯を見せて笑う瀧川。その耳に小神族のカトリがささやいた。口を開く瀧川。

「なんか良くわかんねえけど、素直になってみなよ。俺が言えるのは、それだけ。あ、それと困ったら俺に言えよ。俺はお前の味方だ。今俺が決めた。俺の名前は瀧川陽平。青の友だ」
「はあ。 あ、でもでもアリガトウございますっ、私、私生まれて3番目くらいに良く知らない人からすごく優しくされましたっ」
「そりゃ不幸だな。俺なんか皆が優しくするから、もう数も覚えてねえや」

毛布を抱く斎藤に微笑んで、ピット、すなわち整備用の縦穴から胸部より上の姿を見せる人型戦車に近寄り、ウォードレスのヘルメットから遠隔解放スイッチをいれた。

顔のない、濃いグリーンの迷彩機の胸部装甲が持ち上がり、パイロットシートがスライドして瀧川の前まで現れる。シートに座り、左手を集中操縦器にかざす瀧川。
補助動力装置が動き出し、軽い煙と共に灯油の匂いが立ち込める。発電開始。顔のない頭からレーダーがまわりはじめる音がする。

シートごと自分を格納させ、慣れた手つきで右手でパネルラインのスイッチを次々といれて行く瀧川。
 自分を見つめる斎藤に微笑み、少し身を乗り出して口を開いた。補助動力装置が定格電力を叩き出し、人工筋肉が動き始める。巨大な心臓の鼓動がはじまる。

「斎藤さん、幸せになれるといいな。おっと、出る時危ないから、ちゃんとどけてくれよ」

笑ってボタンを押し、胸部装甲を戻して戦闘室を閉鎖する滝川。笑顔は消え、一人前の戦車兵の表情になる。

隣の機体ではほぼ同じ速度で舞が機体を始動させ、戦闘室を閉鎖させていた。

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