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夕焼けを映す池を前に、水の巫女は目を細めて頭を振って鈴を鳴らすと口を開いた。 ”昔、水は恋した” ”戦激しい夏の日 うねる炎 見ぃつけた” ”水と 違う面立ち ふるまい 立居” ”おそろ ふるえ すわり 泣いた” 池の水が踊りだした。 ”炎、水を無視した” ”戦激しい夏の日 ふるえた水 逃ぃがした” ”許し 慈悲に優しさ ふるえる ほおに” ”ふれて 笑い とおく さした” 池の水面にいくつもの輪が浮かび、人影を映した。 ”水は 恋したぁ 炎ぉにぃ” ”もう一度逢いたい そしてぇ 今度こそぉ、ぉぉ” ”愛を語りたいぃ 全て投げ打ち ただ貴方だけぇを 思う” ”もう一度逢いたい 胸ぇに 触れて” ”そうして 夜をぉ過ごしたいぃぃ” ”愛してる 愛している 貴方” 水の巫女は軽く握った手を胸に当てて歌いあげると、5分待った。 遠くに聞こえる裏門の錆び付いた戸をあける音。垣根から姿が見えた。 水の巫女の、想い人だった。 「ただいまぁ」 「貴方っ」 突然胸に飛び込んできた水の巫女を受け止めて妹人は、照れた。 なんと言おうか考えて、結局芸のないことを言う。 「ど、どうしたの、セーラ?」 「妻の特権です」 「え」 「はい?」 罪の無さそうな水の巫女の笑顔に、妹人はツマって何のことという質問を、しそこねた。幸せそうに上気して笑うセーラを前には、どんな質問も無駄なような気がしてしまう。 というか、照れた。妹人は照れた。 「ああいや、その。ああ、そうだ。お土産、買って来たんだ。クッキー」 「くっきー、とは、ナンですか」 不思議そうな水の巫女に、妹人は、正体不明の衝動……水の巫女の背に手を回して投げ技に持ち込むんじゃなくて、ただそれだけやりたいという衝動に駆られた。こんな気分に、妹人は、慣れていない。 考えて、水の巫女の頭の被り物の大きな鈴を、つつくだけにとどめた。妹人の、助平の限界である。 嬉しそうに笑う水の巫女。 「食べ物だよ。一緒に食べよう」 「はい」 妹人が家に入る時、水の巫女は勇気を振り絞って良人の手を握った。文句は、なかった。水の巫女は幸せの絶頂にある。 |
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