NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(9) 拡大版

 歩兵の弱さは、防御力である。ウォードレスが普及したからと言ってもこの性質は、ほとんど変わっていない。
反面攻撃力は武器の発展とウォードレスの筋力がもたらす武器サイズの余裕のおかげで、飛躍的に拡大していた。

「俺が囮、英吏、お前は前衛だ。俺が時間を稼いでる間に女を助けに行け」
 源は、面白くなさそうにそう言った。先ほどのような罠を仕掛けた場合はともかく、敵の最大戦力と思われるミノタウロスの場所が特定出来ない現状では、囮は、非常に危険性が高かった。
一方的な攻撃を行う状況では歩兵の弱さは表面化しないが、受け身に立った場合は別になるからである。

 それでも源が前に出ると言ったのは、気にくわねえこのデブが、俺よりも仲間の役に立つと考えたからである。死ぬ場合でも仲間への迷惑は最小限に。それが山岳騎兵の不文律である。
命は平等だが、それでも優先順位は発生する。

 英吏は何か言おうとして、結局何も言わなかった。
自分も同じ計算をしていたのだった。だから、うなずいた。

「分かった。なにかあれば地獄で俺を呪え」
「これぐらいじゃ恨まねえよ」
源は、苦笑して見せた。

/*/

「グリンガムっ!」
 グリンガムが走って来る。その背に乗る源。味方よりもずっとはやく、信号弾を見た敵が集まって来るはずだ。
 騎乗したままナイフを抜く。短すぎるが、即席の槍を作る時間もない。
「いけ、英吏、急げ」
同じく騎乗した英吏は動かない。源は、焦れて口を開いた。
「英吏」

 ゴブリンが寄って来る。一際大きい、ゴブリンリーダーの姿もあった。それらを無視し、考えながら口を開く英吏。
「少し考えたが、二人とも生き残り、女を助ける可能性がある方法がある」
「おい」
英吏は源の言葉をさえぎって言った。
「とりあえずはここで戦えるだけ戦う。いくぞ」
顔をしかめる源。
「デブ、恩でも売るつもりか」
「これぐらいでは恩とは言わん」
英吏は、苦笑して言った。

/*/

一方そのころ。
 善行は部下に突撃銃をもたせればよかったと後悔している。
持たせない理由はあった。整備と、弾薬の無駄遣いを避けるためである。

 突撃銃。アサルトライフルは連発(連射)可能な小銃である。自動小銃とも言う。
小銃と言ってもそれは大砲と比較しての話。よく映画やTV番組で肩に紐で下げている90cm前後の長さの銃ことだ。
2000年ころでは歩兵部隊の標準装備として、この武器が使われている。

 ところで銃を持ち歩かなくていい幸せな国の住民はあまり知らないが、銃は、性能維持に結構なメンテナンスを必要とする。
技術が飛躍的に向上した現代でも500発も撃てば分解整備するのが普通で、特に銃筒のクリーニングは必須だった。発砲機会=出撃から帰るたびにメンテナンスとクリーニングしている。

 陸軍歩兵部隊の標準である97式突撃銃は優秀な銃であったが、無論整備がいらない訳ではない。さらには量産するのに加工が面倒ということで、日本の御家芸である筒内のクロームメッキをやめていた。おかげで耐久性は他国並に激減し、これによる性能低下を軽減させる上でも丁寧なメンテナンスをする必要があった。
 青森の戦いでは技量の低い兵士たちに運用されたせいで故障、性能低下が多発したが、この理由は冬季の運用もさることながら、クリーニングやメンテナンス不足によるところが大きい。菅原乃恵留などは掃除で手が汚れるのがいやなので、稀にしか掃除していなかった。

 主戦場であったために練度の高い西日本の舞台ではそういう現象は少なかったが、善行が敗残兵をまとめあげてこの村に来るまでに酷使を重ねた関係で、突撃銃の多くは今現在メンテナンスを受けている状況にあった。

 それでも何丁かは整備済みのものがあった。善行はそれを源たちにもたせておけばよかったと後悔した。けちはいけませんねと思う善行。いまさら思っても仕方がない。

善行は部下の無事を念じながら、部下を追って山野を駆けた。

/*/

 英吏は手榴弾を投げて密集したゴブリンたちを吹き飛ばした。
ばらばらにちぎれて飛んでいく手や足を無視し、クイーンに乗ってだく足で駆け、ナイフを振ってゴブリンリーダーの一匹の瞳を、その切っ先で傷つけた。

叫び。クイーンオブハートが戦闘腕でゴブリンリーダーを刺し貫いた。

いくつものゴブリンたちが飛んでくる。英吏は2発目の手榴弾を投げる。
爆発。小さな肉片がクイーンオブハートと英吏にはりつき、凄惨な状況を映し出した。

円弧を描くように駆ける。

降りて、グリンガムと戦う源の傍へ駆け寄った。
グリンガムは嬉しそう。同時に二体のゴブリンを戦闘腕で叩き潰し、一匹の頭を噛み潰して吼えた。
 源は、斬りつけすぎで握力がなくなって、ばかになった右手にナイフを包帯で巻きつけ、左手で支えて戦っていた。

源は、変な方向に曲がった右手の小指を苦労して戻そうとしながら言った。
グリンガムは殺戮本能の赴くままに殺戮に殺戮を重ね始める。
源は言った。
「どうするんだよ。こりゃ囲まれたぞ」
「まだだ。粘るぞ」
英吏は戦闘の興奮もなく言った。クイーンに指示し、二人の会話を邪魔するゴブリンリーダーの胴体を前脚の一撃で吹き飛ばした。
空だけは戦闘などそ知らぬように、遠くに青空を見せていた。
「いくら雑魚でも、そう持てねえぞ」源は荒い息を吐きながら言った。
「持たせるのだ。健司」
返り血で真っ赤になった英吏はそう言った。

「なんで残った」
 また一匹を殺す源。白兵に限れば英吏の比ではない戦闘力。
だからこそ、消耗も激しかった。敵は源こそを集中して狙った。
「お前が死ねば金城が悲しむ」
 源の側面を守りながら、斬り付けるのをやめて急所である瞳狙いの突きに集中する英吏。
内臓は人間と余り変わらんなと、誤って腹を裂いてしまって英吏はそう考えた。

「それだけか」源は言った。
「不服か?」英吏は言い返した。
「いや」ゴブリンに蹴りこまれ、倒れこんで転がり、その瞳にナイフを突き入れて殺す源。
苦労して立ち上がる。 立ち上がる時間を、英吏の手榴弾の爆発が作った。

「お前の趣味があの金城だとはな」
「俺の趣味ではないな」
「なんだよそりゃ」
「俺はもう少し明るい方が好きだ。俺が根暗だからな。ふむ」

 ミノタウロスの群れ。8匹。

英吏は誕生日プレゼントが来た子供のように笑うと、源に口を開いた。

「やっと来たな。行くぞ源」
「どういうことだ、英吏」
指笛でクイーンを呼ぶ英吏。源もグリンガムを呼んだ。
走りながら騎乗して、二人は並んで早足になる。

 源は、グリンガムの背で、倒れこんでいた。隣で英吏が、静かに口を開いた。
「不確定要素はなくなった。おそらくこれで地域の全部の敵を集めたはずだ。速度はこちらのほうが速い。女を走りながら確保、そのまま逃げ切る。源。信号弾。青を」
「勝手にやれよ。俺の指はもう使い物にならねえ」
グリンガムの背で倒れたまま源にクイーンを寄せ、その腰から拳銃を抜き取り、信号弾をセットする英吏。
さらに姿勢を低く、速度をあげるグリンガムとクイーン。
同時にミノタウロス八匹の股の下を駆け抜けてかわし、英吏は信号弾を打ち上げた。口を開く。
「安心しろ。まだ繋がってるんだからどうにかなる」
「そう願いたいもんだ。くそ、お前に笑って見せるとはしくじった。最悪だ」
「俺も見るなら美人の笑顔の方がいい」
グリンガムとクイーンは全速になり、幻獣達を引き離して逃げ出した。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 2

面白い
ナイス