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zoom RSS BALLSボーナス 白いオーケストラのセラ 12月26日

<<   作成日時 : 2006/03/12 19:40   >>

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 今見れば、ありえないくらい古い道を歩いていた。
寂しくて、懐かしい。息が、とまりそう。全然優しくなんかない、バカみたいな時代。

 あの時よりもずっと高い背のセラは、あの時と同じように白い息を吐いていた。
あの頃は制服を着て、地味な色のコートを来ていた。こっそりとリボンをつけて、それがおしゃれだと、思っていた。今は白い房のある毛皮を着て、ただ足だけは前と同じようにゆっくりと雪を踏みしめている。

 ずいぶん前から呼吸が浅くなっていて、足が、すくむ。高いヒールの靴を履いてきたことを、初めて後悔した。

 呼吸が、止まりそうになる。
胸の上の上着を、握り締めた。

公園で佇む青い髪を見ただけで、涙がこぼれた。
全然違う青色で、性別さえ違う人だったのに。

 公園では若宮さんのような大男と、速水くんの妹のような娘が、凄い身長差で並んでなにかの練習をしている。なんでもないのに恥ずかしそうに、バカみたいな時代。

「竜馬、寒いから抱っこがいい」
「駄目です。いいから練習です。練習。いいですか。えーその、自分谷口竜馬と」
「石田咲良は」
「つきあうことにしました」
「つきあうことにしました……って、でも本当にこんな事必要なの?」
「まあその、周囲に対してのけじめです。工藤もそう言ってますし」
「……最近よく百華の話が出てくるね」
「自分が死んだら貴方を守るのは奴です。……そんな顔をしないでください、約束したでしょう」

 なぜだかそのやりとりを聞いて涙が出そうになって、セラは、それをごまかすために煙草で変わってしまった声で笑おうとして、失敗した。上を見る。ワールドドームもない空。大嫌い。

 振り返って歩き出したセラの前に、黄色いジャンパーを着た男が待っている。

ヤガミ。ヤガミ・ソーイチロー。最強の女神達に守られた、百年の平和の守護者。
どこが守護者だか昔のセラには分からなかったが、今なら分かる。

この人は、いつも誰かが泣く所には居て、そして一人で傷ついている。
だから守護者。この人が本当に死ぬためには、誰も傷つかない未来がいる。皆が作りたいのは、この人の安息。

 セラは女子高生の悠木映のように、泣き笑いして見せた。
「どうしたの? ヤガミ、彼女だか、彼氏は?」
「……瀬戸口には、会わないのか」

セラは頬を伝わる涙を忘れて笑おうとしながら言った。
「だれ、それ? 地味な名前」
「……ハックマンから聞いている。大丈夫だ。遠くから見るだけなら、歴史だって変わりはしない」

 ヤガミを盛大にひっぱたこうとして、これならどんな舞踏子だって許してくれるだろう……そしてセラは、駄目だと思って上を見た。そんなことしたら瞳から涙が大洪水になると思った。口を開く。
「ヤガミは本当に、それで我慢できる? 見ただけで終わりなんて、それで耐えられる?アタシは……アタシは駄目だよ、リバプール生まれなんだからっ」
「熊本生まれだろうとどこだろうと同じことだ。セラ。……お前の気持ちは、良く分かるつもりだ。俺も、顔を白く塗りたくって、懐かしいあの中に戻れたらと思う」

 セラは瞳を閉じた。
「でも、出来ない」
ヤガミは眼鏡を指で押して表情を隠した。
「ああ、出来ない。選べたのは一つだけ。俺の場合は、一人との再会」
「私は逃げた。あの人が、あの人があの黒髪に微笑むのが耐えられなかったから。だから、だから私はアンタとは違う。違うもん……」

 セラは我慢するために下唇を噛んでヤガミを見たあと、両腕で顔を隠しながら号泣した。
一人を抱きしめるためだけにしかないヤガミの腕はセラに対して、何もしなかった。
ただ言葉だけは優しく、セラに言った。
「後悔は、もう十分したんだろう」

セラは泣き崩れた。

 今見れば、ありえないくらい古い道を歩いていた。
寂しくて、懐かしい。息が、とまりそう。全然優しくなんかない、バカみたいな時代。

ゴージャスタイムズじゃない。ロンリータイムズ。しゃべる生き物も、心を通わせる機械もいない、寂しくて悲しい、バカみたいな時代。
イエスだなんて言えない時代。

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