NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(6)

 一方その頃。

木造校舎の屋上では、もう一つの戦いが盛大に行われていた。

洗濯である。

 主戦力は金城美姫と荒木雪子、柱空歌、神海那美、斉藤奈津子と言った面々である。
牧原妹もいたが、兄と自分のもの以外は、洗わなかった。

 深澤はせめて自分の下着だけは自分で洗わせてくださいよぉと嘆願していたが、はっきり言えば、この部隊の男にそんな特権は、ない。

 生活の重要事項は全部女性陣が独占しており、肉の味付けから最重要物資であるポケットティッシュとトイレットペーパーの配分まで、全て荒木雪子が影で操る金城美姫を頂点とする帝国の支配下にあった。
 小物である源のさらに下にある深澤ごときではこの屋上に入れることも出来ない。

例外は一人、先内剣である。帝国の影にして最大実力者、荒木雪子がその姿が見えないと途端に仕事放棄して彼女曰くの剣さんを探しにいってしまうからであった。

ちなみに先内は、何もやっていない。屋上で壁を背に座って、ちと涼しい風に当たっているだけである。待機こそが部隊への最大貢献と、ちゃんと分っているようであった。
 雪子は、時々作業の手を止めると、青空が見えます。とか、遠くの山に梅が咲いています、今、鳥が上を飛んでいきましたと先内に言い、そして飲み物はいりませんか、座り心地は?と、世話を焼いた。

 ちなみにそれだけやっても雪子の作業速度は圧倒的に早く、柱空歌、神海那美、斉藤奈津子三人の作業量を上回っている。山岳騎兵とその運営団体である女の帝国による地位は実力だけで判断されているのである。実力者はそれに相応しい作業をやってのけているわけだ。

 さてその帝国を統べる女王、金城美姫は、相変わらず絶妙の力の抜け具合で歌を歌いながら、放棄されたラボから接収し、屋上に設置された年代物の洗濯機を回している。

「清潔になってしまえー。綺麗になってしまえー。着たら幸せになってしまえー」
である。手作りで作った石鹸が、惜しげもなく使われた。

 その後ろでは長大な登山ロープを使って組み上げた物干し台が作られており、柱空歌は嬉しそうに源の上着にハンガーを通し、干し始めていた。

 新参者の神海は、善行の上着がお父さんの匂いがしますと報告した。
どれどれと数名が確認作業している。あ、ほんとだと場が沸いた。

別のところでは、
「英吏さんは本当に大きいデスねぇ!」
と、斉藤が喜んだ。

 話を聞きながら、知らんふりをする先内。
男達の服がどう扱われていて誰が担当しているかで、少女達が何を考えているか知れていたが、この盲目の楽観哲人は、秘密を守って誰にもこのことを話していない。

 全ては調和だ。と、先内は心の中で言った。
それが穏やかでなるようになっているのなら人はそれを、ゆがめるべきではない。

 荒木のための精神安定剤だか置物を演じ、夜中にやる作業が増えても、この出来た哲人は文句を一つも言わなかった。彼は彼女を好いている。

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また一方その頃。

 善行は燃料に使う板切れの端を貰って、油性マーカーで文字を書いた。

書かれたものは流麗でも美しくもないが、後に誰もが口を揃えてその名を連呼する伝説の名である。

”正義最後の砦”

 それこそは善行忠孝の率いる光の軍勢が戦争を再開したことを示す高らかなる宣戦布告であり、ここより先は寸土も退かぬという全ての敵に対しての警告であり、彼がこの地で友を待つという意思表示であった。

 善行は文字を書き上げると、輝くように笑った。
そして善行は靴箱の端、人員の名が書かれた木札がかけられている場所の左端にひっ掛けた。
 そして胸を張って歩き去った。堂々と、まるで主人の帰りを待つ猫のように。


 道行く多くの者はにわかに現れた、この子供っぽい木札を見て笑ったが、善行に従う古参達だけは、これを笑わなかった。ただ、懐かしそうに笑顔を浮かべ、青の厚志がいつもそうしていたようにその誇り高い看板に触れて、砦の中に堂々と入陣した。

 数時間後、洗濯から解放された先内がこの道を通り、足を止めた。
傍について歩いていた荒木雪子も足をとめ、先内が決して開かれることのない目で見ている先を、見つめた。

 先内は不意に微笑んだ。
「正義最後の砦、か」
驚いたのは荒木である。
「読めるんですか? 剣さん」
「いや、なぜか分った。分った理由はわからない」
荒木は先内の言う事に疑問を持たない。生まれてこっちのほぼ全部、この男の幼馴染として育ち、その男に全部を捧げ続けてきた、それは彼女のルールだった。

剣さんが分ったのなら分ったのだ。理由が分らないといえばわからないのだ。
そんなことは天に太陽が昇るのと同じ。どこにも疑うところがない。

 だから、雪子は、うなずいて別のことを言った。
「誰のいたずらでしょう」

先内は微笑んで口を開いた。 雪子のほうを見て微笑むことが出来ない彼ではあったが、彼はその声で雪子を喜ばせた。優しい響きであった。
「神々だよ。雪子」

先内は子供っぽく笑って雪子に言った。自分では夢にも信じていないが、そうであったらいいなと言うことを口に出して言った。
「きっとこの山の神々が、我々を助けて幻獣と戦い始めたんだ」

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