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zoom RSS ボーナス ガンパレードオーケストラ白の章(35)

<<   作成日時 : 2006/03/01 13:01   >>

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 咲良が待ったのは、7分半である。咲良にとっては長い長い時間だったが、実際のところ航が豆腐屋の前を横切るよりもずっと速い時間に谷口は空先生の家までたどり着いていた。

横山を家まで送り届けて、いいから帰って!と言われると、じゃあ、なにかあったら連絡するんだぞと言った後割烹着を脱ぎ捨てて、谷口は全速で戻ってきていたのである。
今度は隊長のお守りをするつもりだった。

 谷口は一人きりだけなら時速70km制限など守る必要がなかった。屋根の上なら道路交通法も関係ない。要は、衝撃波で屋根を壊しさえしなければいいのだった。
普段なら陸上競技に打ち込む野口や菅原に悪いので遠慮して走っている谷口だったが、この時間なら誰も知り合いは見てなかろうと、蛮人は蛮人らしく完全に一般常識を遠いどこかに追いやって屋根の上を二個飛びの勢いで文字通り飛んで走っている。

勝手に千切れて神経接続しないせいで単なる飾りでしかない多目的結晶が、際限なく再生する筋肉に押し出されてぽろぽろ落ちるので胸ポケットに放り込み、谷口は最後の100mほどを跳躍すると、ごめんくださいと壊れた戸を避けて空先生の家に入った。

 谷口の間の抜けたごめんくださいの声を聞きながら、咲良は恐る恐る隣の空先生を見た。
「賭けに、勝った?」
妙に早いな、途中の道にでも横山を捨てて来たかと思いながら首を傾げる空先生。口を開く。
「微妙」
 涙目になる咲良。空先生は咲良を見ると、結局娘が可愛いので頭を撫でて、まあ、今日のところはお前の勝ちだろうよと言って、その背を押した。

 涙を音を立てて飲んで頬を膨らませて歩いてくるパジャマ姿の咲良に、谷口は頭の後ろを叩かれたように手をやった。
「遅い」
「はぁ、すみません。玄関にガラスが散らばっていまして」
 これは谷口の本音である。
咲良は、背伸びして谷口をにらんだ。
「嘘つき」
「いや、本当です」
「お前は今隊長に嘘をついた。虚偽報告だ」
 咲良が背伸びするとお腹が見えるので谷口は気をツケして口を開いた。
明日から雑念を取り払うために瞑想しようと思う谷口。でないと身がもたない。
「見てください。玄関を、酷い有様です」
 自分がやったんだろうがと二人を見守る空先生は思ったが、娘を思って何も言わなかった。
 激しく青い髪を揺らして口を開く咲良。
「心配すると言ったくせに」
「は?」
「心配すると言ったくせに!!」

 谷口は咲良の表情に慌てふためいた後、空先生に見られないように咲良を曲がり角まで連れて行って優しく小声で言った。こう言う顔を、人に見せるのはだらしないと思っている。
「心配してますよ」
「だったら2秒で来るべきだ。7分29秒41は遅すぎる。本当は2秒でも長い」
「無茶言わんでください。これでも全力で走ってきたんです」
「無茶でもやるのが軍だ」
 谷口から見てもどうかすると拗ねているように見える咲良。
それを前に、どう言おうか考える谷口。
「そりゃそうですが」
どうやって時間を縮めようと思う谷口。建物の損壊は常識人(←谷口自称)としてなるべくやめたいものであった。
しかし、咲良の瞳が潤んだ気がしたのでその考えも放り投げ、谷口は咲良の乱れた髪を一生懸命整えながら口を開いた。

「分りました。もっと急ぎますから」
「それだけじゃ駄目なんだ。今日は休みだけど谷口は私の傍で待機を命じる」
「わかりました。他には?」
「い、犬の図鑑を読むから手伝う」
 谷口が微笑んだので咲良は訳が分らなくなって調子が悪くなった。
笑ってませんといいながら、咲良が顔をゴシゴシしないよう白すぎる手を包む谷口。
「分りました。分りましたから、ほら。身体はともかく、貴方は強いんでしょう」
 音を立てて涙を呑む咲良。うなずく。
「うん、私は最高最新の新型だ」
「だったら」
「でも。賭けに負けるところだったんだ」

 谷口は回れ右して7歩歩いて空先生の襟首を掴んで怒鳴った。
「あんたはウチの隊長に何を教えているんですか!」
 冷静な空先生。口を開く。
「人生の生き方だ」
「賭けごとはいけません。まして隊長には絶対駄目です。いや、ウチの隊では金輪際許しません」
 襟をつかまれながら目を細める空先生。ジャンパーの上にどてらという重装備である。
「うちの隊長か、それともお前の隊長か、どっちだ。谷口」
 頬を赤らめる谷口。
「はぁ? 何を言ってるんですか貴方は」
「声が半オクターブ上がったぞ」
咳をする谷口。
「失礼。とにかくですね、駄目です。お酒もギャンブルも駄目です。路上キャンプも駄目です」
「お前の好みを咲良におしつけるな」
 顔を真っ赤にして谷口は唾を飛ばした。
「ち、違います。力一杯違います。自分は未成年者として清く正しく……」
「でも夜は俺と咲良だけだからなぁ」
「何かやったら本当に殺しますよ」
「ぶっちゃけ咲良が好きなんじゃないか、お前」
谷口はぶっ倒れかけたが、179度の姿勢から足首だけの力で元の姿勢に戻った。

「あの人にそんなことを言ったらひどいですからね」
「否定しなかったな」
「自分がいいたいことはそれだけです。失礼」
 谷口は控えめに言って全軍総崩れで壊走した。
直ぐそこには首をかしげた咲良が立っている。動揺する谷口。

「谷口、スキって」
「あ、大きな白い犬がいる」
「えー!!」
 盛んに辺りを見る咲良をよそに人生最大級のピンチを脱出して汗をぬぐう谷口。
自分がこの人を好きだと? バカな、と思った。

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