NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(16)

 源と、まあついでに英吏が帰ってきたとき、喜んだ者は多かった。
だが源と英吏が怪我していると聞いて喜んだのは、斉藤奈津子だけだった。

 斉藤奈津子。芝村の悪魔。あるいは地獄の最終兵器、ジャガノートと呼ばれる女である。
尖り気味の顎と、良く動く瞳と、長くて細い手足を持ち、髪の毛は飾らず、笑顔は媚びず、もっと言えば、甘えるということを知りもしない。

 彼女は、敗残兵の中にまぎれて山岳騎兵に拾われており、看護学校にいっていたと自己申告して、再編された衛生班の中に混じっていた。

 彼女は、英吏が好きだった。否、英吏の味方を公言するのは彼女だけであった。
斉藤が泥だらけで衛生班に入りたいんですぅ、と言った時、ならその部隊章は外してたがいいなと、言われてからの、彼の味方であった。

 これは、英吏が部隊の医薬品を医薬品がなくて往生していた、病院に残った勇敢な看護兵達に提供した時点で確固たるものになっており、それで彼女は、英吏さんはイイ人ですと、事あるごとに言った。
そしてその一事をもって、英吏は色んな人間から、心底全力で気の毒がられた。英吏を極度に嫌う人間の一人である深澤すら、気まずそうに、困ったら力になりますよ、僕。と英吏に言ったほどである。

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 源と英吏が怪我をしていると聞いて、斉藤奈津子はせっかく洗った大量の洗濯物を取り落としてしまった。脚が、震えた。

「じゅ、重傷なんですか?」
 斉藤は長身で痩せた女だったが、声だけは妙に可愛かった。アニメ声ですよ、とは深澤の談である。
その声をきいて、彼女の面倒を見る神海那美は、少しだけ微笑んだ。
「いえ……大丈夫ですよ。命に別状はありません」

 斉藤の目が、うるんだ。
「良かった。本当に良かった!」
 そして、飛び跳ねて喜んだ。洗濯物をふんずけて、くるくる廻った。
優しく微笑んでいた神海の口が、あぁ、と開いた。

「しかも軽傷だなんて」
「ん?」 神海は少し首をかしげた。

「無傷じゃなくてよかった」 誕生日が来た様に言う斉藤。
「んー?」かなり首をかしげる神海。

「分かりました。万事この斉藤奈津子にチョーお任せください!」
 同じ言葉を青森在住の岩妖精が使うと皆が微笑んだが、斉藤の場合は、違った。
神海はあからさまにあわてた。

「あ、ああ、でも斉藤さん? 英吏さんは」
 神海の言葉に、何もかも分かったように力強くうなずく斉藤。
「はいっ。分かっています。皆が嫌がっても、でも私は超がんばります」

 そして神海が全力でしがみついて斉藤の暴虐を阻止しようとするのを完全かつ華麗に避けきって、喜んで英吏の元へ走った。

「この斉藤奈津子! 恩は絶対忘れませんんんんんん!」

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 一方その頃。

金城は、源を捕まえてコブラツイストをかけていた。
「何の許可で怪我してるのよ。源」
「は、なにその超理論?」
「私は心配したのよ!」
「ギブ、ギブ! 冷静に考えろ、戦闘より俺はこっちのほうが大怪我するような気がする

「知るかぁ!」
「うげぇ!」

 隣でフンと源の無様な姿を笑っていた英吏は、遠くの足音を聞いて、顔色を失った。
眼鏡眼鏡と眼鏡をかけていながら探すように周囲を見渡し、手近な窓から、全力で逃げ出した。体型を無視した速度で逃げる逃げる逃げる。それもそのはず、命がけだった。

斉藤到着。ドアを蹴破った。

「英吏さんの治療にきました。何やってんですか。金城さん」
「教育。……英吏は……ああ。まだ見てないかな。ね、源」金城は冷や汗をかいた。

鈍い音。

「ブクブクブク……」
「何の許可で泡吹いてんのよバカ源!」
理不尽も極まる発言をする金城。だが彼女をもってしても、斉藤さんよりはマシ、私には節度があると、常々発言する。

 斉藤は金城と源のやり取りを無視し、目を細めた。
床に耳をつけ、口を開く。

「熱反応。あります」
続いて英吏の足跡を正確にトレースして不自然に開いている窓から顔を出した。

「英吏さん発見!」
「あぁ!」 源と金城が同時に悲痛な声をだした。

「斉藤奈津子夢の十代。吶喊します!」
金城と源が同時にしがみついて斉藤を止めようとして、二人してこけた。
今だコブラツイストであった。

奈津子。跳ぶ。

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