ペンギンボーナス 白いオーケストラ 前哨戦3

黒い制服を着た工藤はへたり込んで訳が分からないまま、一発の銃声を聞いていた。

誰かが倒れる音。

そして足音。 ゆるやかに近づいてくる。

「ちょっとちょっと、大丈夫ですか。工藤さん」
声の方に顔を上げる工藤。輪郭が見えない。
声の主は軽やかに優しく、
「ブラックアウトです。すぐ良くなりますよ」
と工藤に言った後、笑みを浮かべているであろう軽妙な調子で口を開いた。

「まったく、谷口先輩にも困ったな。こんな美人がいるってのに。どこいってんだか」
 声に反応して、物を移さぬ工藤の瞳孔が開いた。
「誰? いや、その声は、まさか」

声の主は、笑った。
「へえ。覚えててくれたんですね。嬉しいな。あっ、でもこっちじゃそう昔でもないのかな」

 遠くからの声。
「香川、急いで! 良狼も!」
「はいはい」

声の主、香川は工藤に手を貸しながら、3秒待った。
工藤の目が、ようやく見え始める。

「香川!」
ばう!
 犬の声。

香川は頭をかくと、微笑んで口を開いた。
「やれやれ、最悪、青の厚志と一戦交える覚悟だったんだけどな。残念だ。はい、今いきますっ。 じゃあ、工藤さん、元気で。僕、貴方のことも好いていました」

そして、目を一所懸命見開く工藤の耳元でささやいた。
「あ、そうだ。今のうちに謝っておきますね。俺、貴方にひどいことします。ごめんなさい」

 走り去る香川と入れ替わりに、谷口があわてて走ってきた。

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 一方その頃。

 エステルを運ぶ黒衣の列になんの警告もなく突っ込んだのは山梨良狼である。
否、それよりも速く茨城雷蔵の飛び蹴りが、背中に決まった。

「女の子にひどいことする奴はぁ!」
 長く編んだ髪を振り回し、雷蔵は回し蹴りと掌底を決めて数名を吹き飛ばした。
「ひどい目にあうんだぞ!」
そう言いながら流れるように攻撃姿勢を取る雷蔵。
良狼が眼鏡を指で押し上げながら片手で宙に飛んだエステルをキャッチする。

ばうばう2が、わんと鳴いた。

次の瞬間に7、8人が倒れた。良狼だった。この人物のデコピンを食らって倒れない人間はそういない。

 今頃何もかも嘘だったと怒り狂っているであろう奈穂を思って憂鬱そうな顔になる良狼。
口を開けば一言だけ、
「確かに、そうだな」
であった。

ちなみに、ひどい目にあいそうなのは良狼である。ぽかぽかの計くらいは覚悟せねばなるまい。
悩ましい声でうめくエステルを荷物のように肩の上に乗せて、良狼は嘆息した。
軽妙な走りを見せながら拳銃をホルスターに戻す香川が近づいてくる。

「ごめん。昔の知りあいがいたんです」
雷蔵は香川の背を叩いて言った。
「そんなのよりは今の友達。ほら、急ごう。エータロや山口が待ってる」
香川は、昔を思って少しだけ寂しそうに微笑むと、口を開いた。
「そうですね」

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