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zoom RSS NOTボーナス ガンパレードオーケストラ白の章(34)

<<   作成日時 : 2006/02/27 16:45   >>

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一方その頃。

 上田虎雄は、道を歩きながら死ねと言う声に押しつぶされそうになっていた。
ある時は笑いながら、ある時は冷たく、いくつもの声が上田虎雄を責めやんだ。
なんでそう言われるのか、上田には分らない。気に入られようとみんなに声を出せば、それが彼の立場を悪くする。助けを求めても、彼の為に発言する人間は、少なすぎた。

遠くから声が聞こえるんだ。トラオ死ねって。

 彼が一番心が綺麗だと思う工藤にそう言っても、工藤は少しイライラしながら、
「それは幻聴。大丈夫、ちゃんと寝れば直るわ」
としか言わないのだった。

 そうして、上田はとぼとぼと歩いている。手には工藤の口利きで山口から貰った睡眠剤が握られている。

欲しかったものは、こんなものじゃない。

 上田は泣きながら歩いた。睡眠剤が知らないうちに指から滑り落ちて落ちていったが、上田はそれに気づかなかった。

僕が半分アメリカだからこうなるのかと思って、上田は涙を流した。それが無性に悲しかった。食べ物を分けてくれないことよりも、悲しかった。
上田は父に逢ったことはなかったが、悪口を言うつもりはなかった。これまで一度も、誰に対しても悪口を言ったこともない。

 それはペンギンが、そう言っていたからだ。
ペンギンさんパリへ行く。そういうタイトルのアニメを、かつての上田、幼い頃の虎雄は欠かさず見ていた。楽しみという言葉ではくくれない、それは幼い頃の虎雄の真摯な儀式であった。

自分に不足する心の栄養の一つ、父親分を、上田は主人公であるハードボイルドなペンギンから補給しようとしていた。毎週月曜30分、1回づつ。
悪口も、それを思う心も悲しいと、上田が思うようになったのはその頃からである。それはペンギンの言葉だったが、いつしか上田の父が言った言葉になっていた。

 だけど悲しいんだ。とても、とても。

上田は、膝まで沈む雪の中を歩いた。涙が凍って、頬が痛かった。
彼は悲しかった。トラオ死ねという言葉は、まだ我慢できた。心を閉ざせばよかったから。
彼の心をぐちゃぐちゃにしたのは最近聴こえる遠くからの声が、彼に助けを求めるものに変わったことだった。
 その有様があまりにも身勝手過ぎて、上田はその醜悪さに吐気を覚え、そして絶望した。自分にも、人間にも。
それで部隊を離れた。死のうと、そう思った。

 雪の中に倒れる。人里は十分に離れた。雪は深々と降っている。もうそろそろ死んでもいい、いや、死ねるはずだと虎雄は目をつぶった。

 彼を守る小さな青い光達が見る間に輝きを失っていく。

虎雄は、意識を失った。

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