テンダイス

アクセスカウンタ

zoom RSS ボーナストラック バレンタインアララ&清子さんハイ(3)合同コース

<<   作成日時 : 2006/02/26 21:09   >>

ナイス ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 0

 戦車長 小太刀右京は74式戦車(愛称:清子さん)を愛している。
学生時代にこの戦車が大きな幻獣と戦う映画を見たときから、その愛は始まっている。
所謂純愛であった。

 だからだろうか、彼はいい加減装填手を補充してくださいと本部に文句をいいに言ったとき、保育園慰問の話を聞いて、一もなく二もなく引き受けたのである。

いや、装填手も重要だがこれも重要だと、小太刀は思っている。
戦局は暗いどころが真っ暗だが、この戦車を見れば、子供の気も、晴れる。
 小太刀はそう思っていた。自分がそうだった。だから今もそうだと思っている。

そして今、激しくそれを後悔していた。
 保育園は小さすぎ、主砲でブロック塀をぶっ壊さないようにするために仰角最大にしてさらに油圧で背伸びして通らざるを得ず、ついでに言えばこの種の細かい動作が、このお婆ちゃんの年代物変速機は結構苦手だった。
こいつも若い頃はちゃんと動いていたんだがなぁと、操縦を預かる三輪が呟く。

 その背後で何か壊したらわが軍の練度に疑いを与えると、小太刀は幻獣ゴブリンを前にした時以来の恐怖を感じていた。実際、汗がどっと出ていた。

 ウインカー点灯。90式砲戦車の最近の製造車両では、いい加減、道路交通法もなかろうと取り外されているが、こいつにはしっかりついている。緊張する。ちんこ縮まる。

小太刀が声を震わせて言った。
「いいか、滑り台を壊すんじゃないぞ。ジャングルジムもだ」
「壊れたらこんな命令出した上に弁償させましょう」
同じく汗をだらだら流しながら加納が言った。近年中々ない緊張だった。

「装備の更新もロクにしないわが軍に何を期待している。いいか、壊すなよ。あの子達が遊ぶものがなくなったら俺達は一生後悔するぞ」
 静々と低速で走る清子さん。窓ガラスの向こうで子供達が並んで、はじめてみる戦車に息を呑んでいる。もっとも中にいる乗員は、それどころではなかった。

「よし停止」
「停止」

 車内で万歳。上手く止まってくれた。狭いので手を思いっきり上げられないのが残念だ。ちょっと馬鹿に見える。
三輪が後ろを向いて小太刀に言う。
「エンジンカットするか」
「当たり前だ、燃料の無駄づかいはよくない」
「一度カットすると大変だが」

 小太刀は唇を震わせて3秒考えたが、未来の愛国者達を優先させた。
「カットだ。排気ガスは子供に悪いだろう」
 三輪はそれを聞いて悲壮な顔をしたが、確かにうなづいた。
「分かった。でも、発進するときはエンストしないよう祈ってくれ」

エンジンカット。車内の震えがとまる。ハッチをあけて3人がそれぞれ顔を出した。

もう安全と思ったか、ガラス戸をあけて子供達が続々と寄ってきている。
声援を聞いて一瞬三人は笑ったが、続いてヘンな顔をした。
子供達の日本語が変だったし、髪の毛が金色だったり肌が浅黒かったりしたからだった。

「車長、現況を報告してください!」
加納の叫び。
「視察してくる」
小太刀はハッチから身を乗り出し、背伸びしたままの戦車からどうにか降りて、人のよさそうな伯母さんに近づいた。察するにこの人がミノタウロス、ではない、中型幻獣、でもない、この施設の世話役だろうと考えた。

「慰問に参りましたっ」
「ありがとうございます。まさか、本当に来てくれるなんて」
 涙をぬぐいながら言うおばさん。

「主人も戦車兵で。61式って大昔の戦車の頃ですけど」
「はあ、そりゃどうも」
 ものもちのいいこの国では61式は今でも現役ですと小太刀は言いかけたが、頭をふった。いや、今言わなければならないのはそういうことではなく。
「なんだか、変わった子供達のようですが」
「ええ、この子達は日本人じゃないんです。それで」
 小太刀は自分以外の隊員が、なんで慰問したがらなかったのかもう一つの理由を知った気がした。戦火を逃れて大量に流入してくる外国人を嫌うものは多い。
お偉いさんの中にも、国産主義者とほぼ同数くらい外国人嫌いは多い、イコールかもしれない。こういう活動で目をつけられちゃかなわんと、小太刀も少し思ってしまった。

 おばさんは涙を拭いて、嬉しそうに言う。
「でも、それでも死んだ主人のつててお願いしてみたんです。軍人さんが慰問に来られたら、ここへの風当たりも少し和らぐと思って」
 戦時下で前線近ければ軍人が大きい顔をする。戦車連れて慰問に来たと言えば待遇が変わるのも、おかしな話ではない。 ドンパチが近ければだれだって軍人と友達になりたがるのが戦争だ。

腕を組んでうなだれる小太刀。確かに現実は反吐が出そうなくらいひどいものだった。
子供相手にも差別してるのかと、これまでの自分の立場を剛速球で遠くに投げ出してそう思った。腹が立った。

 小太刀は、組んだ腕を解いて敬礼した。
「分かりました。それでは慰問任務を遂行します。どうぞ、僅かな時間ですがお楽しみください」

 そうして、普通は慰問を受ける立場の軍人が慰問するという事態が始まった。

子供達の多くは戦車の上に乗りたがり、背の高い三輪は乗せたり下ろしたりに大活躍することになった。

子供の中には戦車を怖がって近づかない子もおり、これらは加納が威嚇せぬよう、匍匐前進で近づいて、声をかけた。怖くないよと、心の底からそう言った。

勇気ある子供は戦車に絵を描きたがった。小太刀は必死に抱き上げたりなだめたりして抵抗したが、最後は腕組んでうなだれることになった。子供達が泣き出したのである。

 それで、戦車に落書きされた。なぜだかペンギンが多かった。

一際大きなアデリーペンギンを描いたツインテールの娘子が、小太刀に笑いかけた。
笑うとゆれる赤い髪の毛を、小太刀はかわいいと思った。
名を、アララと言う。アララは子供の中でも一際勇気があり、怖い顔の小太刀を少しも恐れはしなかった。背伸びして、手を伸ばして、口を開く。

「これ、あげる」
リトルチョコだった。昔5円だった、小さい奴。
「いえ、心遣いは不要です」
小太刀は背筋を伸ばして言った。税金以上には何も奪わないのが理想の軍隊と、海軍士官だった爺さんが言っていたことを鮮明に思い出す。そうだろうさ。そうだとも。

微笑むアララ。
「貰わないといけないよ。だってこれはバレンタインデーだから」
「今は12月です」
 小太刀は生真面目に言った。保育園の子にしちゃ大きい、学校に入れないのかと小太刀は思う。それでも、アララの笑顔は崩れなかった。
「じゃあ2月に来る?」
10秒考える小太刀。ぜひ来たいと思ったが、約束して、そこまで生き延びられなかったらこの子が一生傷つくと思った。
「2月は忙しいんです。分かりました、ありがたく頂戴します」

自分にとっては高嶺の花の、銀剣突撃勲章を受け取るように受け取り、小太刀は場を去った。
 このままこの場所にいたら、泣いてしまうと思ったからだった。

帰り道、リトルチョコを三人で分けてありがたく食べる。清子さんは見違えるように調子がよくなり、加納は、真面目な顔であの子達が清子さんに力を与えたんですよと言った。

 小太刀がふと見れば三輪は眼鏡をとることもなく音もなく全力で泣いており、そして、前を向いて泣きながら口を開いた。
「俺は、俺は国産主義をやめるッ」
「何故だ」
小太刀は動揺してそう尋ねた。こんな身近に裏切り者が出るとは思えなかった。お前らそんなにM60が好きなのか。
三輪は涙を拭かずに言った。
「あの子達は、国産じゃないが俺は好きになった。だから俺は、俺はもう国産主義ではない」
 小太刀は友を一瞬でも疑ったことを後悔した。
「あの子達を国産で守ればいいじゃないか」
 小太刀は言った。思いつきで言ったものだったが、小太刀はこの言葉を気に入って一生言い続けることになる。国産主義と博愛主義は両立すると、そう思った。

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
ナイス ナイス
ボーナストラック バレンタインアララ&清子さんハイ(3)合同コース テンダイス/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる