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zoom RSS NOTボーナス ガンパレードオーケストラ白の章(32)

<<   作成日時 : 2006/02/24 16:29   >>

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 一方そのころ。谷口は横山を抱いたまま走っている。
正確に言えば、抱くではなく、持って走っている。
親友を病院に連れて行くにあたり、一応女性である横山のどこにさわっていいか谷口は困ったあげく、腰の上あたりを両手で挟んで走ることにしたのである。

なかなか普通の筋肉でできる芸当ではない。

咲良なら三人並んで掴まってブランコごっこしても腕が下がらない恐るべき筋肉と渡部の実家で作った豆腐10丁を壊さないで手の上にずらりと並べて乗せて百m走する精密なコントロールが出来る精妙な筋肉が、これを可能にした。

谷口家の末子にして長男は、伝説や神話に出て来る古代の英雄そのままの身体能力を持っている。それは彼が愛してやまない4人の姉を守るために造り上げられた現代に蘇る伝説の筋肉であり、長じて文字通りの守備範囲を広げて親友と部下と上司というか咲良のことだがまで守ろうと割烹着の下で脈動をはじめていた。

馬より速く何日も走り、強弓よく矢を3km先まで飛ばし(その前に弦を切るが)なんの苦労もなくアンフィスバエナの尻尾を掴んで投げ飛ばすことが出来る男、それが蛮人竜馬であった。深いこと考えるとすぐ胃が荒れるのが珠に瑕だが、それさえなければ出鱈目な仕様で動いている。力を入れれば多目的リングすら内側から割れ、ならばと埋め込み手術した多目的結晶すら筋肉で押し出されて飛び出る始末であった。

問題は間違って現代に生まれて来たことであり、彼はこれで散々な苦労をすることになる。
体の弱い王女と無頼の蛮人という話なら一発で解決することが、現代では出来ない。

 話を、戻す。

谷口は横山を持ったまま走った。全力で走ると横山が脳震盪を起こしたりレッドアウトで目の前が真っ赤になったり合成風圧で呼吸が出来なくなったりするので、かなり気を使って走っている。

今ようやく、時速70kmを越えた。

/*/

 その後方500m。

妹(隊長のこと)に続いて親友の心配まですることになった小島航は走ったが、谷口には追いつけない。それどころか見る間に見えなくなった。相手は女一人を抱いていたが、そんなハンデでは話にならない。
正確には自動車で追いかけても都市部ではお話にならないのだが、身内に厳しい見方をする航は、そこまで谷口を評価していない。

 足を止め、竜馬、後で殺すと考えた後、どうするか考え、頭の中で病院を検索して公共交通機関を乗り継ぐ計画を立てる航。こっちは頭の良さで勝負だ。

/*/

 一方横山は、降ろして、着替えさせてと小さな声で言っていたが、時速70kmの作る風圧で声がかき消されていた。

 このままではこの格好で病院についてしまう。
横山は泣きそうになりながら手を伸ばして、谷口の首に抱きついて声をかけた。

「いじめないで……」
「は?」
「もうこれ以上いじめないで」
 頬に当たる横山の涙に激しく動揺する谷口。足を、止めた。

「どこか痛いのか」
そして、もみあげをまとめて引き抜かれた。涙目になる谷口。

引き抜いた横山はもう虚勢も張れずに、顔を隠して泣いている。
「だから……病院じゃなくて……家に……お願い」
「駄目だ」
もみあげがなくなりそうな勢いで引き抜かれたが、谷口は動じなかった。
横山に傷つけられるまま、気が済むまでさせた後、そっと声をかける。
「今日、俺は隊長が重傷だと聞いて死ぬよりもつらかった。俺を友と思うのなら、これ以上、俺を苦しめないでくれ。な。……病院にいこう」

 ひょっとしたら谷口には気づかれてないかもと考える横山。小さな希望を持った。
そっと小声で、言った。
「……家で着替えたら病院にいきますから」
「格好なんてどうでもいいだろう」
 希望は粉砕された。谷口も色々気づいていたが、その上で無視していた。大切なもののためには四つんばいになっても歩こうとした横山と同じ程度には、谷口も横山を思っていた。

でも横山は許せなかった。男女の違いというものである。
横山は恥ずかしさで顔を真っ赤にして泣きたくて実際泣いていたが、もみあげを引き抜くことだけは忘れなかった。

横山は命じた。
「私が大事なら家に連れて行って」
「駄目だ」

3秒かけて最後の気合を溜めた後、横山はもう一度言った。
「私が”本当に”大事なら家に連れて行って」
谷口はぐぅと本当に言った後、折れた。そうしようと決めた竜馬の意思を折ったのは、咲良に続いて2人目である。咲良が下を向いてしゃべる時のしぐさと横山の顔がだぶって胃が痛くなる谷口。だから、口を酸っぱくして言った。
「いいか、少しでも痛そうな顔をしたら暴れても病院につれていくからな」
横山は黙って、うなずいた。色々ありすぎて、今日はもう、眠りたかった。

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