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割烹着で家の戸をぶち破ってやってきた谷口と、娘である咲良の面倒を見るために空先生がコタツから立った後の短い時間は、佐藤と鈴木の、二人だけの時間だった。 もっとも、二人とも、いたって実務的だったので浮いたような事は何もない。 ただ二人で並んで、コタツに入って茶を飲んでいただけである。 美男美女の取り合わせで二人並んでコタツでお茶というのは、シュールな光景だった。 湯気をたてる緑茶をすすり、静かと言って良い所作で口を開く鈴木。 「馬鹿ね、谷口は」 隣の美少女に同じく茶を飲む佐藤。ちなみに彼は猫舌なのでお茶は、かなりさましてある。 横を見るようなこともなく、前だけを見て口を開いた。 「馬鹿だが、俺は嫌いじゃない」 鈴木も前を見たまま、少し笑った。 「貴方にとっては最大の褒め言葉ね、佐藤」 「最大じゃない。真央に言うための言葉が別にある」 二人は平然と黙って、並んで同時に茶を飲んだ。 まったくと言って良いほど照れがない上に色気がない、恐るべきカップルであった。 互いの顔を見つめあうことも、ない。お茶のおかわりも互いに勝手にやっている。 それでも、本当に全力で感じ取ろうと思えば、二人の間にかすかに穏やかな雰囲気が流れている。 北極の雪嵐の中で見上げた北極星のような温かみの鈴木ファンタジアと、南極の奥地、雪原で一人佇んで歌を歌う佐藤、そんな優しさと穏やかさがある。 鈴木は目を細めて茶をすすると、 「意味が違うわ。佐藤。石田は、あまり長く持たない。もう多臓器不全が起き始めている」 佐藤は動揺を見せなかった。ただ、少しだけ不快そうに眉をひそめただけである。 鈴木は目を細めたまま、口を開く。 「元々人型戦車の部品取り用のクローンに、誰かが戯れに新機能をつけただけもの。それでも新任で勇敢で有能な小隊指揮官の平均寿命は3週間だから、まあ、悪くはない計算ね」 佐藤は、鈴木よりも感情がある。正確には真央の役に立たないと全部の感情を鋼の自制心で押し殺しているが、時々、鋼の蓋が割れて、瞳に感情が浮かぶことがあった。 例えばそう、誰かの心に影が差す時だ。 佐藤は言った。 「対策は?」 鈴木は答えた。 「無理よ」 そしてほんの少しだけ、冷たさを和らげて言った。 「火星に飛ばされた水の巫女は行方不明。時間跳躍者は全部出払っている。あんな身体では、私たちだって寄生できない。どんな世界の謎ハンターだって、この状況を突破することは出来ない」 鈴木は横を見ずに言った。 「怒っている?」 佐藤の目の中に炎が揺らめいている。 「いいや。そんなものはただの無駄だ」 佐藤は小さくそう言った後、さらに小さい声で言った。 「俺は、急いでいる。無駄なことをやるつもりはない」 鈴木はふと笑った。 ポケットから可愛らしくラッピングされた小さな箱を取り出し、コタツの上に載せて滑らせる。 滑ってやってきた箱を受け取る佐藤。 「これは?」 鈴木は茶を飲んだ。 「チョコよ。あげるわ。バレンタインデーだもの」 「今は12月だ」 「私は2月なのよ。佐藤」 そして鈴木は顔をしかめると、立ち上がって言った。 「それに、私は貴方のそれまでに、存在しているとは思えないから」 |
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