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zoom RSS NOTボーナス ガンパレードオーケストラ白の章(14)

<<   作成日時 : 2006/01/10 23:43   >>

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 横山亜美は、カーボン竹刀を引っつかみ、飛ぶように走っている。坂道を下りるその速度は、すばらしく速い。
白い息が、スチームのように口から出た。

 岩崎の黒い尻尾の槍に心は貫かれたまま。それが脚を、急がせた。

胃が痛くなるほど、谷口は隊長のことを心配している。
「それだけ心配しているんだろ? 隊長のことを」
迷惑かけられているだけです。男らしくない。
そう一笑に付そうと思ったが、時折谷口が隊長にだけ見せるどこか透明な笑みが思い出された。
そんな笑みをかけられたことが、横山にはない。

 実際のところ横山が思い出した谷口の笑みは、奇行重なる隊長へのあきらめに似たさびしい笑いだったが、本人でもない横山に、そんなことが分かる訳もない。

 それに大変な勘違いながら、答えからそう遠くないところにもいた。谷口は石田咲良に心惹かれている。

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 胃の中のものを何もかも吐き出してもなおとまらず、一度を大きく息をした後で道の真ん中に倒れたのは石田咲良である。

 先生を呼ぼうと思ったが、口に出たのは別人の名前である。
「谷口……苦しいよぉ……」
 そうつぶやいたが、谷口は来ない。いつもなら10秒で来る。声なら6秒。

6秒はすぐだった。15秒は長かった。
一杯まで広げられた紅い瞳が、不意に光を失う。谷口が自分のいない所で嬉しそうに笑っているのが視えた。自分といるときは見せたことのない、そんな笑みだ。

 咲良はそこで絶望して、呼吸を止めた。

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 鼻の穴も全開に、鼻歌の調子よろしく谷口はまこと上機嫌で、道を歩いている。
今日の餡パンと牛乳の件では腹が立ったが、その後咲良が大変珍しく、いいや、着任以来初めてじゃなかろうかという感じで素直に自分の言うことを聞いてくれたので、機嫌を直していたのである。

 今後ともこうであって欲しいものだと、会心の笑みで歩く谷口。
自分の地道な努力=小言が、ついに報われたと思っている。

 何か聞こえたような気がして、谷口は立ち止まった。

後ろを振り向く。

「隊長ぉ?」

/*/

 横山亜美が谷口ならぬ道と抱き合っている咲良を発見したのは、そこから30秒ほどのことになる。

 谷口が相手でもそうしただろうが横山は息を止め、続いて全力で走りよった。
違ったのはぶっ飛ばしますをやらずに咲良を抱き上げたことである。

 抱き上げた瞬間に吐瀉物の粘り気に嫌悪感を覚えたが、それどころではない。もとより雪のように白い咲良の肌が、真っ白になっていた。息もしていない。

 なっ。

総毛立ったが、次の瞬間何をすればいいのか、途方に暮れた。暮れたのは2秒である。
そ、そうだ、人を、葉月を呼ばないと。

 次の瞬間、竹内漕ぐ自転車の後席におさまり、坂道を全力で下る岩崎が隣を通り過ぎた。

「吐瀉物を喉から取り除いて人工呼吸をしたほうがいいねぇ!」
 そう言って通り過ぎていく。
自転車は赤信号を直進。大変なことになる。

 我に返る横山、指で咲良の口の中に指をいれ、中のものをかきだした。
喉にふれたか、嘔吐がはじまる。よかった。

呼吸、呼吸は?

 横山は激しく上下する咲良の胸を見て安心する。安心した瞬間に嫌な匂いが、鼻についた。目に付いたか涙が出たが、無視して、隊長、しっかりしてください、隊長!と言った。

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「なんでこんなことするんですか!」
危険な速度で走っていく自転車を漕ぎながら、竹内は言った。やばい。ブレーキロックしているのに全然とまらない。

「いい質問だね竹内くん、これより速い移動手段が、僕ぁ、思いつかなかったんだよ」
「さっき隊長と横山さんがいましたけど」
「そうそう。どうでもいいけど、とまりそうかい?」

 竹内は目を細め、ブレーキワイヤーが切れて不意に軽くなったブレーキレバーを握ったり開いたりして口を開いた。
「祈ってください」
「うんうん、祈っておくよ」

 谷口、荷台から手を振りながらジャンプ。華麗に着地。

「ひ、ひどー!」
 竹内の声が小さくなる。赤信号に突っ込む。大変なことになる。

髪をかきあげる岩崎。走る谷口の背を見て、安心して帰り始める。一度交通事故の現場を見た。
「馬鹿だなあ。自転車なんか捨てればいいのに」

肩をすくめて、歩き出した。仕事サボった分を取り返そうと考えた。

/*/

 荷物を投げ捨てて全速で戻った谷口が見たのは、意識を失ったと見える咲良と、それを抱き、谷口を見上げて涙を流している横山である。

「あ、な……なにが」
 動揺する谷口の顔に、吐瀉物がまじった雪が投げつけられる。
横山だった。悔し涙が出た。咲良と谷口があんまり仲が良くないことにほっとしたが、それ以上に谷口の不甲斐無さに、腹を立てた。どんなに嫌な仕事だって、全力でやって欲しかった。

怒鳴る。
「貴方がついていながら、何をしているんですか! 隊長は息が止まっていたんですよ!」
「なっ……なんだと!?」
 泣きながら息を大きく吸い込む横山、咲良を抱きしめる。
「馬鹿!」

 谷口の大きな体が震えた。

(続く)

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