5日目 午後 ガンパレード・オーケストラ白ルート2 Dコース

 石田咲良、実は綺麗だねと言われたことがない。

だからそれは、生まれてはじめてのことだった。
耳まで真っ赤にして外に出た。雪は降っているが、外気温が低いとは思わない。
空先生に報告しようと思う。

「隊長ぅー!」

 自分を追いかけてくる谷口の姿を見かけて、咲良は脚をとめた。

「どうしたの、谷口」
「どうしたもないでしょう」

 よほどの勢いで走ったか、肩で息をしつつ、湯気を出しながら谷口は言った。
手に持ったコートを差し出す。

「コートです」
「ご苦労。でも、今必要を認めない」

 谷口は勢い良く背筋を伸ばした。結果、見上げることになる咲良。
「駄目です」
 谷口は言った。逃げ出そうとする咲良の襟を子猫のように掴んで引き戻す谷口。
「貴方はそう言ってすぐなんでも置き忘れるんです。それに」
「それに……?」

 谷口は彼の感覚からすれば丈が短すぎると思えるスカートが風にそよぐのを見て顔を赤らめた。
「風邪を引くといけません」
「私は風邪ひかない。そうなっているから」

 谷口は頑固だった。
「では体が冷えるといけません」
「冷えると何がいけないの?」
 谷口は彼の感覚から見れば白すぎると思える頬を見て、難しい顔をした。
そもそも隊長は細すぎるのがいかんと考える。ありていに言うと彼は保守的だった。

「自分の胃が痛くなります。やめてください」
「うん、分った。谷口、着せて」
 いつもなら何で胃が痛くなるの?と返すところが予想外に素直に言うことをきいたので、谷口は相当に面食らった。それでも習性は無意識に返事を返す。

「は」
 かいがいしくコートをきせて、ボタンをかけてやる谷口。興味深そうに周囲の風景のあちこちを見ている咲良。
 その細い首筋を見て、この人には暖かい帽子が必要だと考える谷口。そして彼は次の給料の使い道を決めた。

「できました。手袋は自分で出来ますね」
「つけて」

 谷口は少し考えた後、咲良の頭にチョップした。遅れて頭を押さえる咲良。
「いいですか、貴方はなんでも人に頼りすぎです」
「私は指揮官だ。部下を使うのが仕事だ」
「プライベートは別です。自分の事は自分でやらなければなりません」
「でも谷口は私に手袋つける時嫌な顔しない」

 谷口の顔が赤らんだ。実はその事実こそを谷口は恐れていた。先日、手袋はめてやる時ちょっと幸せを感じてしまったのである。それを必死に否定しているのが、今の谷口だった。

「あー、おほん。とにかく、いいですね。プライベートでは人間自分のことは自分でやらないといけません。はい。小言終わりです。空先生のところですか、いってらっしゃい」
「うん。谷口は?」
「自分もすぐいきます」

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 谷口は一人きりになった後、ええい俺はもっとビッグな幸せを求めているはずだと除雪して積んである雪の中に頭を突っ込んだ。

 その光景を半眼で見る横山亜美。少し考えた後、コートをいそいそと脱いだ。

雪から顔を出す谷口、横山と目が合う。
瞬きした後、口を開く谷口。

「なんだ、横山、暑いのか」

ぶっ飛ばされる谷口。

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