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zoom RSS BALLSボーナストラック ドランジ

<<   作成日時 : 2005/12/30 12:28   >>

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 カール・T・ドランジは現代の騎士であり、幸せである。
現代とは豊饒の海に生まれ変わった2252年の火星のことであり、騎士とは精神的な心構えを言い、そして幸せとは、彼は騎士の幸せを取り戻したことを意味している。
すなわち守るべき何もかもを取り戻したことをいう。

 彼はホームである船と、家族である乗員と、愛すべき女を取り戻し、もう二度と手放さないことを誓った騎士である。そうしてきっと、約定は果たされるだろう。
誰もがそう信じるほど、カール・T・ドランジは精勤に励んでいた。

あまり眠らないことをエリザベスが心配して問うと、彼はどこか優しく笑って3年寝たのだから、もういいのだと言った。

 190cmを越える長身で短く刈り上げた金髪のドランジは、古い太陽系総軍の制服を捨てて新調したスーツに袖を通した。彼の愛する女の髪の色に似た、黒い服であった。
黒に寄り添う縁飾りには金の線、襟には滝を登る金の龍の刺繍が施されている。良く見れば、その龍は玉の代わりに前脚に一人の女をちょこんと座らせている。すなわちそれがドランジの心境の全てなのであった。

今は、同僚のハリー・オコーネルと共に小カトー以下の歳若いパイロットとニャンコポンを育てるのに一所懸命で、ぞろぞろと歩く彼らを先導して怖い顔のどこかそう、瞳の奥あたりを笑わせて歩いている。

その高い背に話しかけるパイロット候補生がいた。火星先住民の女の子だ。
「ドランジ教官、僕達はいつ実戦に出れるんですか」
「まだまだだ」
「教官はいつもまだまだって言います」

ドランジは声を立てずに歯を輝かせた。
話しかけてきた候補生を含め、何人かの年少組を抱き上げてまた歩き出す。
彼は、自分が生きている限りは候補生達を戦場に出したくなかった。そうこの子達に言ったら怒るだろうなと思いつつ、エレベーターホールにベンチに面白くなさそうに座る舞踏子を片目で追って見逃し、そして歩いていく。

 30分ほどで、戻ってきた。
全然面白くなさそうに手の上にあごを乗せている舞踏子の隣に座り、そして似合わない苦笑いして、頭を掻いた。

 ドランジから顔を背ける舞踏子。
「いいなぁ、人気者は」
 などという、似合わない苦笑をするドランジ。洒落た言い回しを考える。
「君の妹や弟だ。可愛がりもする」

「本当に? 実は10歳の身体がいいとかそういうのない?」
「ない」
 ドランジは即答した後、真顔で言った。
「自分が好きなのは、重量200kg、腕力は重作業機械以上、垂直落下100m2Gでも傷一つつかない女だ」
 頬を膨らませる舞踏子。ベンチを立つ。

「あ、そ。それがだれだか知らないけれど、残念様でした。ちなみに今の私は体重43kg、腕力はエノラくらい、5mジャンプで骨折なの」

 恨みたらしくドランジをにらんだ後、口を開く舞踏子。
「じゃ、そういうことで」

背を向けて歩き出す前に舞踏子は腕を掴んで抱き寄せられた。
以前ならまったく不可能なことで、弱い義体最高と思う舞踏子。

 背から自分を抱きしめるドランジを見上げる。
ドランジは口を開いた。
「訂正をしたい」
「どんな風に」
「自分は母艦が重武装している必要を感じない。戦うのは艦載機だ」
「でも丈夫なのが好きって言ってたくせに」
「実のところ君が君なら、自分はどんなスペックでもあまり気にしてない」
 ドランジはそう言いながら手信号。降伏す、寛大な処置を請う。
舞踏子、手信号返し。 着艦不許可。やりなおせ。
ドランジ即座に、自分を指差した後、撃墜されたの手信号。舞踏子の顔に指を向けた。

 あっちを見る舞踏子。
「着艦、難しいかもよ?」
「そこは腕でどうにかする」

 二人は5秒ほど互いを見詰め合った後、照れた。照れたまま、目を細めて口を尖らせる舞踏子。
「うーん。じゃあ、弟や妹みたいにお姉さんも抱っこして欲しいなあ……」
「教育に良くないかも知れないな」
 ドランジは顔をあげて言った、エレベータホールのすみ、階段側に年少組みが鈴なりになっている。あわてて逃げ出す年少組。

「好きってことを教えることは、教育に悪い?」
「なるほど。それは重要だ」

どの道どう答えても、ドランジは逆らえないと自分で分かっていた。
立ち上がってその腕に舞踏子を乗せる。その龍は素晴らしい玉の代わりに前脚に一人の女をちょこんと座らせたのだった。

そっちのほうが、価値があると信じたから。

「では見せびらかしにいこう」
え、やだ、ちょっと恥ずかしいよという声を聞き流し、とりあえずヤガミがいそうな
艦橋に向かいながら、ドランジは優しく言った。

「実のところは、ずっとこうしたいと思っていた」

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