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zoom RSS ボーナストラック 式神の終わり

<<   作成日時 : 2005/12/23 10:49   >>

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 何もかもから逃げ出すように、夜着を着た小夜だけを抱いて光太郎は逃げ出した。
背中は痛いが、自称青年探偵を名乗る未熟な少年にとっては、それどころではない。

別にふみこでもイヤではないというか、なんというか、顔を赤くする光太郎。
駄目だと、思う。イヤではないくらいでその、何かするのは、よくない。

 唐突に首にまわされたふみこの細い手を思い出した。月子のそれとは、全然違う感じ。
冬なのに寒くないくらい顔が熱くなる。


 日中の冬の公園である。
死んだよな少女を抱いてベンチに一人学生服の少年が座る様はひどく目立ったが、誰も声をかけようとはしなかった。

 光太郎を慕ってここ最近出来た自警団の若者達が見回り中にベンチに座る光太郎の姿を見て、周囲の人間を追い払いはじめたのである。

それで、公園には一人だけになった。正確には、一人と、それが抱く少女だけになる。


 自分が意識を失っていた数日で、ひどく弱くなったような小夜を見る。意識が小夜に集中する。
1年ほど前にはじめて背負った時は見た目より重いと顎を出しかけたのに、今は腕の力だけで抱き上げられるくらい、軽かった。

顔を、近くからまじまじと見たことがなかったと思う光太郎。
訳の分からない女という生き物の中で、一番思い通りにならない象徴的存在が、光太郎にとっての小夜だった。喜ばせようとしたら怒り、何もしてないのに悲しみ、変なところで意固地になる。たとえば名前の呼び方だ。

思い出して段々理不尽な気持ちになる光太郎。なんというか、腹が立つ。
嫌いなら嫌いって言えよと言ったら、口に手を当てて走っていったのが、小夜を見た最後だった。次見たら病気かよ。バカヤロウ。

抱きしめる光太郎。

寒さに気づいて、学ランを脱いで包んでやった。
小夜の唇に目が行って、目を反らす光太郎。一瞬でも嫌がらせでキスしてやろうかと思う自分の醜さが、嫌だった。
 もっと、己の信じる正義にまっすぐと、自分の醜いところ、悪いところを何もかも捨てて、ただまっとうに生きようとする人のために悪と戦ってお縄にかけるような男になりたいと思う光太郎。思うだけじゃ全然駄目だと一年前に知った。だが現実は努力はいつも全然足りないことを彼に教える。

 今日も、そうだった。すごい魔法が使えれば、あるいは医者みたいな技術があったら、小夜をこんな風にはしなかった。なっても助けられた。俺はいつも、努力が足りない。

 小夜の顔を見る。こいつを助けるために、俺でも出来ることがあると思い出した。
そのためなら、これがはじめてでも仕方がないかと思った。

「俺、ザサエさんを無くしたんだ。お前まで無くしたくない」

 光太郎がそうつぶやくと、小夜が急に目を覚ました。驚く光太郎の胸の下で両手を伸ばし、まるでザサエがいつもそうしていたように小夜が光太郎の首に手を回した。

 少年を護るように。

「え、あの、ちょっと」
「何を……泣いているのですか」
 小夜の胸に涙が落ちたので、小夜の中のザサエが激しく反応を始めたのだった。小夜の体に活力を送り出しはじめ、光太郎を全力で護ろうとする。
光太郎を抱きしめればそれを護ろうと魂の内なる部分、勇気と隣り合う場所の心の泉から霊力が際限なく湧き上がった。最下級の醜い精霊を光の女神に変えるほどの霊力だった。

 顔が真っ赤になる光太郎。
「というか、お前こそ、なんだよ一体、こ、この手は」
「あれ」

 小夜は磁石のように引き寄せられる自分の腕にあがらいながら、手を引いた。
すごい喪失感。なれない感じに小夜も真っ赤になる。

「なんだよ一体は私の言葉です。こ、こんな所で……うっ……」
「小夜!!」
「お腹、すきました」
 お腹を押さえる小夜。顔をしかめる。盛大にぶっ倒れそうになる光太郎。
別の意味の涙。くやし涙だった。

「ふ、ふみこタンにまた騙された」

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「いいのか、マサシ」
「ボスのやることだ。いいに決まっているだろう」

 光太郎と小夜のやりとりを物陰から護る若者達がいる。光太郎に感化されて自警団を組織した連中だった。次々と抗争を繰り返しながら大久保、新宿近辺を制圧してしまっている。
 その中の一人、自警団の実質上リーダーで光太郎に心から心酔する学ランを着た褐色の肌の少女、それが、マサシと呼ばれた髪の短い人物だった。小柄で女で日本人かどうかも定かではないが、光太郎に感化されている人間達は、そんなことを気にしない。

「俺達はアンタこそがボスのつれあいにふさわしいと思っている」

光太郎が小夜を抱いて歩き出したので……さすがに裸足で歩かせるわけにはいかなかった……マサシは手を振って光太郎を護衛するよう配下を動かし始めた。進言した部下の言葉に背を向ける。口を開く。

「ボスは日本人とくっついたほうがいい。これから俺たちは外の世界に打ってでる。そう言うときにはこの国の大多数をしめる日本人からつれあいがでていたほうが有利だ」

 マサシの胸に見えぬ誰かが針をさした。顔をしかめるマサシ。

<ボーナストラック#2 光太郎編 了>

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